第16話 圧倒
森が、軋んだ。
さっきまでとは、違う。空気そのものが、重い。魔力が、一点へ集束していく。しかも、雑じゃない。丁寧に、練り上げられている。
「リーファ、下がれ」
「……はい!」
彼女が距離を取った瞬間、地面が砕けた。
土煙を割って現れたのは、人型だった。
「……魔族?」
いや、違う。姿は人に近い。だが、目が空虚だ。そこに、意志の色がない。
「……使い魔、か」
それは、ゆっくりとこちらへ顔を向けた。次の瞬間――消えた。
「っ」
直感が、背筋を叩く。背後。振り向くより先に、空間が歪んだ。衝撃。だが、俺は一歩も動いていない。
魔力障壁。透明な壁に、使い魔の拳が阻まれる。
「……速いな」
Bランク冒険者なら、反応すらできなかっただろう。使い魔が、すっと距離を取る。その動きは、洗練されていた。獣のそれではない。剣術の型に、近い。
「……魔物に教えるレベルじゃないな」
つまり、誰かが直接、この身体を操っている。
使い魔が、両手を広げた。足元に、魔法陣が浮かぶ。
俺は、詠唱しない。ただ、魔力を一段階、押し上げた。
その瞬間、魔法陣が崩れ落ちる。
「――ッ!?」
使い魔が、初めて“反応”らしきものを見せた。だが、もう遅い。俺は、一歩踏み出す。その一歩で、間合いという概念が意味を失った。
「……終わりだ」
指先を、軽く振る。
――消滅。
爆発も、断末魔もない。ただ、存在そのものが、静かに切り取られた。森が、しんと静まり返る。
リーファが、震える声で言った。
「……今のは、討伐、ですか?」
「……いや」
俺は、首を横に振る。
「警告だ」
空気が、わずかに揺れた。――視線。遠く、森の、もっと深い場所から。もう、隠す気すらないらしい。むしろ、こちらを試して、楽しんでいる。
「……悪趣味だ」
俺は、空を仰いだ。
「俺は、面倒事が嫌いなんだ。それでも、仕掛けてくるなら――」
魔力を、わずかに解き放つ。森全体が、地鳴りのように軋んだ。
「次は、容赦しない」
返事は、なかった。だが、確かに――何かが、引いた。
リーファが、そっと近づいてくる。
「……アレン。今のは……」
「世界の裏側だ。たぶん、俺はもう――」
言葉を、慎重に選ぶ。
「普通の冒険者では、いられない」
街へ戻る道すがら、魔物の気配は、一切なかった。だが、それは平和ではない。息をひそめた、嵐の前の静けさだ。あの森の奥の“誰か”は、次こそ本体で現れる。俺は、そう確信していた。
「次は、容赦しない」――そう言い切った相手が、ついに自分から出てきます。
格上を正面から叩き伏せる展開に胸がすいた方は、★をひとつ、置いていってください。




