第12話 初依頼
冒険者ギルドの掲示板には、色とりどりの依頼書が貼られていた。
「薬草採取……街道周辺の魔物討伐……」
どれも、駆け出し向けの内容だ。リーファが、控えめに一枚を指差す。
「最初は、この辺りでしょうか。《ブルーリーフ採取・三束》。森の浅部で、危険度も低めって……」
「悪くないな」
派手さはないが、確実だ。俺たちは、その依頼書を剥がした。
「薬草採取か。新人らしくていいじゃねぇか」
背後から、軽い嘲笑が飛んでくる。振り返ると、数人の冒険者がこちらを眺めていた。装備の格からして、Cランク前後だろう。
「魔法使いが前に出るなよ? 森の浅部でも、油断すりゃ死ぬぞ」
「忠告、ありがとうございます」
素直に返すと、男たちは拍子抜けしたように肩をすくめた。
「素直だな。まあ、せいぜい頑張れ」
受付で依頼を確認し、街を出る。森は、村の近くよりも人の手が入っていた。だが、流れる魔力の質は同じだ。妙に、静かすぎる。
ブルーリーフは、水辺の近くに生える薄青い薬草だ。俺は魔力を薄く広げ、その反応を探った。
「……あった」
「え? もうですか?」
リーファが、驚いた声を上げる。
「ああ。三束分、まとめて」
少し先の茂み。魔力の返りが、はっきりしている。歩いて数分、辿り着いた場所を見て、リーファが目を丸くした。
「……本当だ。こんなに固まって生えてるなんて」
「運が良かったな」
根を傷つけないよう、丁寧に摘み取っていく。だが、手を動かしながら、引っかかるものがあった。魔物が、いない。本来なら、この辺りにも小型の個体が出るはずだ。
「……少し、様子がおかしい」
そう呟いた瞬間、茂みが大きく揺れた。
「来ます!」
リーファの叫びと同時に、牙を剥いた魔物が飛び出す。だが、普通より一回り、身体が大きい。
「……依頼書と、話が違うな」
俺は一歩も動かず、魔力を放った。魔物は空中で動きを止め、そのまま地に崩れ落ちる。
「……え?」
リーファが、言葉を失った。
「大丈夫だ。もう終わった」
消費した魔力は、ほとんどない。やはり、と思う。近ごろの魔物は、群れない。その代わり、一体一体が、微妙に強い。裏で何かが手を加えているとしか、思えなかった。
依頼そのものは、問題なく片づいた。ギルドへ戻ると、受付嬢が目を瞬かせる。
「もう、終わったんですか?」
「はい。こちらが、依頼品です」
「……確認しますね」
数を数え、状態を検める。
「問題ありません。報酬、お支払いします」
銀貨を受け取った俺の背に、視線が刺さった。さっきの冒険者たちだ。
「早すぎだろ。本当に、行ったのか?」
俺は首を傾げる。
「普通に、終わりましたが」
一瞬の沈黙のあと、誰かが低く漏らした。
「……なんだ、こいつ」
ざわめきが、じわりと広がる。リーファが、小さく息を吐いた。
「……もう、新人扱いはされなさそうですね」
「そうかもしれないな」
だが、これはまだ入り口だ。魔物が群れをやめ、一体ずつ強くなっている――その理由を掴まないかぎり、依頼はこの先いくらでも、“話が違う”ものへ化ける。
目立てば、絡んでくる者もいる。次話、アレンは初めて“力の差”というものを、人へ向けます。




