第11話 冒険者ギルド
辺境の街――ラグナ。村から半日ほど歩いた先にある、小さな街だ。石造りの城壁は年季が入り、あちこちに補修の跡が重なっている。
「……思ってたより、賑やかですね」
リーファが、きょろきょろと辺りを見回す。確かに、人は多い。冒険者、商人、荷を担いだ行商人。通りの両脇には、武器や防具を並べた店が軒を連ねている。
その雑踏の中心に、目的の建物はあった。
――冒険者ギルド。
大きな木の扉を押し開けると、喧騒が一気に流れ込んできた。
「おい、昨日の依頼どうなった?」
「報酬、足りねぇぞ!」
酒の匂い。汗の匂い。生きた人間の匂いが、鼻の奥まで押し寄せる。カウンターの奥では、女性がひとり、忙しなく書類を捌いていた。
「次の方、どうぞ」
明るい声に招かれ、俺たちはカウンターへ向かう。
「冒険者登録を、お願いします」
女性が顔を上げた。
「はい、新規登録ですね。では、お名前を」
「アレン・フェルドです。こっちは、リーファ」
「かしこまりました」
手際よく、用紙が差し出される。
「こちらに記入を。基本ランクは、Fからになります」
想定どおりだ。
「それから、簡単な適性確認を。魔力測定と、身体能力のチェックですね」
リーファが、少し緊張した面持ちで俺を見た。大丈夫だ、と目で返し、俺は測定用の水晶球に手を置く。
――パキン。
乾いた音がした。水晶球の表面に、細かなヒビが走っていく。
「ちょ、ちょっと待ってください!?」
受付嬢が、慌てて水晶球を引き寄せた。
「これ、壊れてます……!? え、今朝交換したばかりなのに……」
ギルド内が、ざわつく。
「またかよ……」
「最近、多いな」
――また。
その一語が、耳に引っかかった。だが、今は黙っておく。受付嬢は深く息を吸い直して、俺を見た。
「……失礼しました。正確な測定ができない場合、仮登録扱いとなります」
「問題ありません」
数値など、正直どうでもよかった。
「では、身体能力の確認だけ済ませましょう」
剣を振る。走る。反応を見せる。簡単な動作確認のはずが、終わると受付嬢が、また固まっていた。
「基準値……大きく超えてます。えっと……Fランク相当では、ありませんね」
周りの冒険者たちが、こちらへ目を向ける。
「なんだ、あいつ」
「新人だろ?」
「仮登録ですが……ランクはE、いえ、D相当で扱わせていただきます」
想定より、少し上に出た。控えめにしたつもりだったが、加減はまだ難しい。
「こちらが、ギルドカードです」
受け取った木製の簡素な札に、“冒険者”の文字が焼き付けられている。その三文字を指でなぞると、背筋を、静かなものが伝った。ずっと欲しくて、決して手に入らなかった立場だ。
「これで、正式に依頼を受けられます。掲示板から、お選びください」
「ありがとうございます」
掲示板へ足を向けると、リーファが小さく息を吐いた。
「……いきなり、注目されてますね」
「慣れるさ。たぶん」
その背に、低い声がかかった。
「……おい、新人。一つ、忠告してやる」
振り返ると、傷だらけの鎧をまとった男が立っていた。
「この街じゃ、実力がすべてだ。舐められたら、終わりだぞ」
俺は、軽く頭を下げた。
「ありがとうございます」
男は一瞬だけ目を細め、それから、にやりと口の端を上げる。
「……面白そうだな」
喧騒に紛れて、その一言だけが、妙にはっきりと残った。この男とは、また関わることになる気がした。
初めての依頼は、薬草採取。派手さのない仕事の裏に、小さな違和感が潜んでいます。
王都では測れなかった力に、水晶球のほうが音を上げた場面ににやりとした方は、★の評価をいただけると嬉しいです。




