第13話 格の違い
ギルドへ戻ると、空気が少し変わっていた。刺さる視線。敵意というより、探るような目つきだ。噂が回るのは、思ったより早い。異常な速さで初依頼を終えた新人。しかも、測定器を割った張本人。これで目立つなというほうが、無理な話だった。
「……なあ」
背後から、低い声がかかった。振り返ると、三人組の冒険者が立っている。装備はそこそこだが、使い込まれているというより、見せびらかすための飾りに見えた。
「新人。さっきの依頼、本当に一人でやったのか?」
「一人ではありません。彼女と一緒に」
リーファを手で示す。男たちは、彼女をちらりと見て、鼻で笑った。
「エルフのガキ連れで? 冗談きついな」
リーファの肩が、わずかに強張る。俺は、一歩前に出た。
「事実です。それ以上でも、それ以下でもない」
「……生意気だな」
男のひとりが、俺の胸ぐらへ手を伸ばしかけた。
――その瞬間、空気が重くなった。
俺は、何もしていない。ただ、魔力をほんの少し、漏らしただけだ。
「……っ?」
男の手が、途中で止まる。
「な、なんだ……身体が、動かねぇ……」
三人とも、顔から血の気が引いていた。膝が、笑っている。効きすぎたか、と俺はすぐに魔力を引いた。張り詰めていた空気が、ふっと元へ戻る。
「……今の、何だ?」
「威圧みたいなものです。攻撃じゃありません」
事実だった。もし攻撃していたなら、彼らは今、立っていない。
「ここは冒険者ギルドでしょう。実力で語る場所のはずだ」
男たちは、言葉を失っていた。
そこへ、落ち着いた声が割って入る。
「――そこまでにしておけ」
傷だらけの鎧。以前、忠告をしてきた男だった。
「新人に絡むのは、みっともないぞ」
「ガ、ガルムさん……」
どうやら、Bランクらしい。ガルムは、俺へ視線を移した。
「……お前、相当抑えてるな」
「……そう見えますか」
「見えるとも」
彼は、口の端を上げた。
「今のは威圧じゃない。力の差ってやつを、身体に教えただけだ」
周囲が、静まり返る。男たちは何も言えず、後ずさった。
「……悪かった」
それだけ残して、去っていく。リーファが、詰めていた息をようやく吐いた。
「……怖かったです」
「悪い。俺の配慮が、足りなかった」
だが、必要なことでもあった。舐められ続ければ、面倒はかえって増える。
「……お前」ガルムが、もう一度声をかけてきた。「名前は?」
「アレンです」
「そうか。覚えておく」
それだけ言って、背を向ける。だが、その背中は、もう新人を見る者のそれではなかった。
ギルド内のざわめきが、戻ってくる。
「……今の見たか?」
「触れてもいねぇのに……」
リーファが、小声で言った。
「……もう、完全に目立ちましたね」
「だな。でも――これで、遠慮はいらない」
俺は、掲示板へ目を移す。舐めてくる相手は、もういない。次に選ぶ一枚から、俺は本当に、この街の魔物へ踏み込んでいく。
掲示板に一枚だけ残る、誰も手を出さない依頼。ベテランが退いたその案件へ、次話で踏み込みます。
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