第114話 進むか、抗うか
再び、会議室。
だが今回は、
空気がはっきりと違っていた。
迷いではない。
分断だ。
「結論を出すべきです」
中堅技師が言う。
「この収束傾向を、受け入れるのか」
「それとも、抑制するのか」
曖昧な言葉は消えた。
選択の段階に入っている。
「……抑制できるのか?」
ロイドが問う。
エルドは、静かに首を振る。
「分からない」
「だが」
「影響を与えることはできるかもしれない」
全員が息を呑む。
可能性。
それだけで、
十分だった。
「具体的には?」
「収束の強い地点に介入する」
「ばらつきを、意図的に残す」
ざわめきが起きる。
「それは……」
若い技師が言葉を選ぶ。
「非効率を、作るということですか?」
「そうだ」
エルドは即答する。
空気が、揺れる。
それは、
これまで否定してきたものだった。
「……危険では?」
「危険だ」
「被害が出る可能性も?」
「ある」
正直な答え。
だからこそ——
重い。
「なら」
別の技師が言う。
「やる理由は何ですか」
沈黙。
理屈では、
収束に従う方が正しい。
安全で、
効率的で、
被害がない。
それを崩す理由。
それは——
「……未来だ」
ミレナが言う。
全員が見る。
「このままだと」
「変われなくなる」
「選べなくなる」
「それって」
息を吸う。
「今は良くても、ずっと良いとは限らない」
誰もすぐには否定しない。
だが、
納得もできない。
「未来のために、今を危険にするのか」
技師が言う。
「そうです」
ミレナは、はっきり答える。
「……それは」
言葉が詰まる。
間違ってはいない。
だが、
受け入れにくい。
アレンが、静かに口を開く。
「どっちも正しい」
その一言で、場が止まる。
「安全を取るのも」
「変化を残すのも」
「間違いじゃない」
全員が黙る。
だからこそ——
「選ぶしかない」
それが、結論だった。
ロイドが、深く息を吐く。
「……分けるか」
その言葉に、
誰も驚かなかった。
すでに、
そうなりかけていたからだ。
「収束を受け入れる側」
「ばらつきを残す側」
「それぞれで動く」
リーファが、静かに頷く。
「対立、ですね」
「違う」
ロイドは首を振る。
「確認だ」
どちらが正しいかではない。
どちらを選ぶか。
その結果を、
見極めるための。
ミレナは、アレンを見る。
「……どうします?」
問い。
だが、
もう答えは分かっている。
アレンは、少しだけ笑う。
「お前が選んだ方でいい」
「……ずるいですね」
「そうか?」
「はい」
でも、
嫌ではない。
ミレナは、視線を戻す。
そして、言う。
「私は」
少しだけ迷う。
だが、
すぐに決める。
「ばらつきを残す方に行きます」
静かな宣言。
だが、
はっきりとした一線。
数人が、頷く。
数人が、目を伏せる。
選択は、分かれた。
収束に従うか。
抗うか。
どちらも正しい。
だからこそ、
重い。
アレンは、窓の外を見る。
整った世界。
揺れない境界。
動かない流れ。
その中で——
小さく、
逆らう動きが生まれようとしていた。
それが、
何を生むのか。
まだ、誰にも分からない。
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