第113話 収束する理由
エルドは、一人で解析室に残っていた。
結晶板に映るのは、
これまでの境界データ。
過去。
現在。
そして、
収束していく波形。
「……なぜだ」
誰に向けるでもない問い。
境界は災害ではなかった。
それは、もう分かっている。
だが、
では何なのか。
彼は、データを重ねる。
収束前の境界。
ばらつき。
不規則。
例外。
そして現在。
均一。
安定。
最適。
「……違うな」
ぽつりと呟く。
これは、
“良くなっている”わけではない。
方向が違う。
「……減っている」
数値ではない。
感覚に近い結論。
選択肢。
分岐。
例外。
それらが、
削られている。
エルドは、別のデータを開く。
人の動き。
物流。
職業。
移動経路。
同じだ。
境界と同じように——
ばらつきが減っている。
「……揃えられている?」
その仮説が、
初めて明確な形を持つ。
だが、
誰が?
何が?
答えは出ない。
だが、
方向は見える。
「……安定か」
安定。
それ自体は、悪ではない。
だが、
極端な安定は——
変化を止める。
エルドは、椅子にもたれる。
目を閉じる。
思い出す。
第四章。
空白地帯。
ばらつきだらけの世界。
不安定で、
非効率で、
危険だった。
だが——
生きていた。
選択があった。
「……逆だ」
今は、
安全で、
効率的で、
完璧だ。
だが——
動いていない。
「……これが進めば」
ゆっくりと呟く。
「世界は、固定される」
その言葉は、
確信に近い。
その時、扉が開く。
ミレナが入ってくる。
「まだやってたんですね」
「ああ」
「分かりました?」
エルドは、少しだけ迷ってから言う。
「仮説だが」
「境界は、世界を壊しているんじゃない」
「……じゃあ?」
「整えている」
ミレナが、眉をひそめる。
「整える?」
「ばらつきを消して」
「最も安定する形に寄せる」
「それって」
言葉を探す。
「……良いことじゃないんですか」
「短期的にはな」
エルドは頷く。
「だが、長期的には違う」
結晶板を指す。
「ばらつきがあるから、変化が生まれる」
「変化があるから、適応できる」
「それがなくなると?」
「固定される」
その一言で、十分だった。
ミレナは、ゆっくり息を吐く。
「……じゃあこれ」
「世界を、固めてるんですか」
「そう見える」
断定ではない。
だが、
否定もできない。
ミレナが、静かに言う。
「……止められるんですか」
同じ問い。
だが、重さが違う。
エルドは、少しだけ笑う。
「止める必要があるのか、からだな」
正しい流れかもしれない。
進むべき方向かもしれない。
それでも——
選ぶのは、人間だ。
外。
アレンは、夜の街を歩いていた。
すべてが整っている。
乱れがない。
無駄がない。
完璧に近い世界。
「……整いすぎだな」
小さく呟く。
世界は、
バランスで成り立つ。
拡がる力と、
収まる力。
今は——
収まる方に傾いている。
このまま行けば、
やがて——
動かなくなる。
境界が、遠くで一つ消える。
誰も見ていない。
誰も気にしていない。
それが、
今の世界だった。
そして、
それが続けば——
もう、
誰も疑問を持たなくなる。
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