第115話 ばらつきを残す者たち
外縁近くの観測拠点。
人の数は、少ない。
選ばれたわけではない。
ただ、
選んだ者が来ただけだ。
「……これだけか」
若い冒険者が、周囲を見て言う。
十人にも満たない。
以前なら、
もっと多くが集まった場所だ。
「十分だ」
アレンが答える。
「やることは決まってる」
ミレナは、拠点の外に立つ。
遠くに、
境界の兆候。
小さい。
だが、
確実に発生する。
「……来ます」
技師が言う。
結晶板が、淡く光る。
通常なら、
ここで管理網が介入する。
即時収束。
被害ゼロ。
終わり。
だが——
「……止める」
ミレナが言う。
技師が、躊躇する。
「本当に?」
「うん」
「一時的に、管理干渉を遮断」
「ばらつきを残す」
静かな指示。
だが、
意味は重い。
「……了解」
技師が操作する。
光が、一瞬だけ揺れる。
管理網との接続が、切れる。
その瞬間。
境界が、
変わる。
揺れる。
広がる。
不規則に。
「……久しぶりだな」
若い冒険者が、低く言う。
以前の境界。
読めない。
暴れる。
危険。
だが——
生きている。
「来るぞ!」
誰かが叫ぶ。
境界が、
地面を歪ませる。
小さな裂け目が、走る。
「散開!」
ミレナが指示する。
全員が動く。
考える。
判断する。
選ぶ。
それぞれの位置で、
それぞれの動き。
揃っていない。
だからこそ——
ぶつからない。
アレンは、中央で観測する。
境界の変化。
揺れ。
ズレ。
「……いい」
小さく呟く。
これは、
“固定されていない”。
まだ、
可能性がある状態だ。
「左、強い!」
「抑える!」
冒険者が動く。
だが、
完全には抑えない。
あえて残す。
ばらつきを。
「……難しいな」
技師が言う。
「完全に止める方が、楽だ」
「そうだね」
ミレナは頷く。
「でも」
視線を外さない。
「それだと意味がない」
境界が、揺れ続ける。
数分。
誰も、楽を選ばない。
最適を選ばない。
ただ、
“関わり続ける”。
やがて——
境界は、ゆっくりと収まる。
自然に。
完全ではない。
だが、
“決められた形”ではない。
「……終わった」
誰かが息を吐く。
静寂。
そして——
疲労。
「……きついな」
若い冒険者が、笑う。
「でも」
少しだけ、顔が明るい。
「悪くねえ」
ミレナも、息を整える。
疲れている。
だが、
どこか軽い。
「……今の」
技師が言う。
「効率、悪いですよね」
「悪い」
アレンが即答する。
全員が少し笑う。
「でも」
ミレナが続ける。
「選んだ感じ、あったでしょ」
沈黙。
誰も否定しない。
あった。
間違えるかもしれない選択。
それでも、
自分で選んだ感覚。
それが——
残っている。
遠くで、
別の境界が収束する。
完璧に。
誰も関わらずに。
こちらは違う。
非効率で、
危険で、
面倒で、
だが——
選択がある。
「……続けるか」
アレンが言う。
誰も迷わない。
もう、選んでいる。
この道を。
それが、
何を失うかも分かっている。
それでも——
選ぶ。
そのこと自体が、
この場所に残っていた。
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