第110話 揃いすぎた世界
数日後。
街は、さらに静かになっていた。
境界は発生している。
だが、
誰もそれを気にしない。
警報が鳴る。
装置が反応する。
終わる。
それだけだ。
「……もう、誰も見に行かないんですね」
若い技師が、ぽつりと言う。
リーファは頷く。
「必要がないから」
その言葉に、
違和感はない。
正しい。
完全に。
ミレナは、通りを歩きながら言う。
「前は、違った」
「境界が出ると」
「みんな動いた」
「怖がって」
「集まって」
「判断して」
今は——
誰も止まらない。
誰も迷わない。
ただ、
流れている。
「……揃ってるな」
アレンが言う。
「何がです?」
「動きだ」
人の流れ。
思考の流れ。
判断の流れ。
全部が、
同じ方向に揃っている。
若い冒険者が、苦笑する。
「効率いいってことだろ」
「そうだな」
アレンは否定しない。
「だから、揃う」
市場に入る。
客の動きが似ている。
店の並びも似ている。
売られているものも似ている。
「……選んでる気がしない」
ミレナが呟く。
買っている。
だが、
選んでいる感覚がない。
「提示されてるだけだな」
アレンが言う。
「最適なものが」
最適な商品。
最適なルート。
最適な行動。
それが並べられて、
そこから外れる理由がない。
だから——
外れない。
酒場。
会話が、少ない。
「最近は楽でいいな」
誰かが言う。
「境界もすぐ終わるし」
「危険もない」
「……そうだな」
別の男が答える。
だが、その声に、
熱はない。
ミレナが、静かに言う。
「楽って」
「こんな感じでしたっけ」
リーファは、少し考える。
「違う気がする」
楽は、
余裕を生むはずだった。
だが今は、
余裕ではなく、
空白になっている。
「……何も起きないからか」
若い冒険者が言う。
「それもある」
アレンは頷く。
「だが、それだけじゃない」
窓の外。
境界が、また一つ収束する。
誰も見ていない。
誰も関わらない。
「……決まってるからだ」
「え?」
「結果が」
アレンは、静かに続ける。
「最初から」
「どの選択をしても同じになる」
「なら」
ミレナが言う。
「選ぶ必要がない」
「そうだ」
選択の意味が、薄れていく。
だから——
人は、考えなくなる。
夜。
ギルド。
報告書が並ぶ。
すべて似た内容。
被害ゼロ。
即時収束。
問題なし。
「……綺麗すぎるな」
ロイドが、低く言う。
「何がです?」
「全部だ」
問題がない。
だからこそ、
問題がある。
エルドが、静かに言う。
「これは、管理ではない」
全員が見る。
「管理は、選択を助けるものだ」
「だが今は」
少し間を置く。
「選択が、不要になっている」
沈黙。
それは、
理想のはずだった。
だが——
誰も、それを喜べない。
アレンは、壁にもたれたまま言う。
「揃いすぎると」
「何も残らない」
その言葉は、
静かに広がる。
均一な世界。
正しい世界。
だが、
そこには——
“選んだ跡”がない。
それが、
何よりも薄気味悪かった。
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