第107話 均一化
街は、静かに変わっていた。
表面は変わらない。
人は歩き、
店は開き、
装置は光る。
だが——
動きが、減っている。
「……依頼、また減ってるな」
ギルドの掲示板を見ながら、
若い冒険者が呟く。
境界対応は、ほぼゼロ。
外縁探索も、激減。
残っているのは、
定型業務だけ。
「危険が減ったんだ」
別の冒険者が言う。
「良いことだろ」
「……そうだけどな」
納得しきれない声。
ミレナは、街の通りを見ている。
以前より、人の流れが整っている。
無駄がない。
遠回りがない。
寄り道がない。
「……みんな、同じ動きしてる」
「効率的なんだろ」
リーファが言う。
「うん」
ミレナは頷く。
「でも……」
言葉が止まる。
市場へ行く。
商品は並んでいる。
だが、種類が少ない。
「売れ筋だけ仕入れてるんです」
店主が言う。
「無駄がなくて助かりますよ」
「以前は?」
「いろいろ試してましたね」
少し笑う。
「売れないものも多かったけど」
今は違う。
最適なものだけが残る。
無駄はない。
だが——
広がりもない。
別の通り。
かつて冒険者が集まっていた酒場。
客は、まばらだ。
「仕事がねえからな」
店主が、肩をすくめる。
「境界が全部片付いちまう」
「外にも出ねえ」
「楽になっただろ?」
「……まあな」
笑う。
だが、どこか力がない。
「でもよ」
店主は、少し声を落とす。
「話が減った」
「話?」
「変な境界とか」
「危なかった話とか」
「見たことない景色とか」
酒場は、
そういう話で満ちていた。
今は——
「同じ話しかねえ」
静かな言葉。
ミレナは、外へ出る。
空は同じ。
風も同じ。
だが、
世界が狭くなっている感覚。
「……これ」
ミレナが言う。
「悪いことじゃないですよね」
自分に確認するように。
「悪くはない」
アレンが答える。
「でも、良いとも限らない」
若い技師が、少し考えて言う。
「ばらつきが減ると」
「予測はしやすくなります」
「その代わり?」
「外れ値が消えます」
「外れ値?」
「予想外です」
「例外です」
「新しい発見の元です」
沈黙。
外れ値は、
危険でもある。
だが、
可能性でもある。
「……全部、平均になっていく」
ミレナが呟く。
平均。
安全。
効率。
最適。
それが積み重なると——
均一になる。
遠くで、
また境界が発生する。
装置が反応し、
即座に収束する。
誰も見に行かない。
誰も関わらない。
ただ、終わる。
アレンは、それを見ている。
均一な世界。
正しい世界。
だが——
「尖りがないな」
ぽつりと呟く。
「……尖り?」
「外れたものだ」
「変わったものだ」
「間違ったものだ」
「それが、なくなる」
ミレナは、ゆっくり頷く。
間違いが減る。
だから、
間違いから生まれるものも、
消える。
街は、安全だ。
だが、
静かすぎる。
何も起きない世界は、
何も生まれない世界でもあった。
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