表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された無能魔術師、実は全属性適性だったので辺境で最強になります  作者: 蒼月アルト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

106/119

第106話 間違えられない世界

 昼過ぎ。


 小さな悲鳴が上がった。


「——っ、誰か!」


 振り向くと、

 子供が地面に倒れていた。


 足元に、薄い歪み。


 境界。


 だが、

 あまりにも弱い。


「軽度だ!」


 若い技師が叫ぶ。


「接触は浅い! すぐ引けば——」


 子供の母親が駆け寄る。


「大丈夫、大丈夫だから!」


 子供は泣いている。

 だが、意識はある。


 足に、かすかな裂け。


 致命傷ではない。


 処置すれば助かる。


「動かすな!」


 ミレナが止める。


「境界の中だ、引き方を間違えると——」


 判断が必要だった。


 引くか。

 待つか。

 境界を処理するか。


 選択肢は、あるはずだった。


 だが——


 境界は、動かない。


 形も、

 揺れも、

 完全に安定している。


 まるで、

 “これが最適”と決まっているように。


「干渉すれば即解除できます!」


 技師が叫ぶ。


「でも」

 ミレナが迷う。

「接触状態で干渉すると反動が——」


 以前なら、

 境界は不安定だった。


 だから、

 読みながら対応できた。


 だが今は違う。


 完璧すぎる。


 変化がない。


 “ズレ”がない。


 だから——


 判断の余地がない。


「……どれが正解だ」


 若い冒険者が、歯を食いしばる。


 選べない。


 いや、


 “選ばされている”。


 干渉すれば安全。

 引けばリスク。

 待てば時間がかかる。


 答えは、見えている。


 全員が、同じ方向を向く。


「干渉します!」


 技師が装置を起動する。


 光が走る。


 境界は、即座に反応する。


 完璧に。


 収束。


 子供の足が、解放される。


「やった、助かった!」


 母親が、涙を流す。


 子供も、泣きながら笑う。


 周囲の空気が、緩む。


 成功。


 完璧な処理。


 被害最小。


 ——だが。


「……」


 リーファが、黙っている。


 ミレナも、動かない。


「どうした?」


 若い冒険者が言う。


「助かったんだぞ」


「……うん」


 ミレナが、小さく頷く。


 だが、目線は子供の足にある。


 裂けた部分。


 本来なら、

 もう少し浅く済んだはずの傷。


 ほんの少しだけ、

 深い。


「……今の」


 ミレナが、ゆっくり言う。


「別のやり方、あったよね」


 沈黙。


 誰も、すぐに答えない。


 あった。


 たしかにあった。


 境界を少し崩してから引く。

 時間をかけて解除する。


 リスクはある。


 だが、

 傷は浅く済んだ可能性がある。


 でも——


 選ばなかった。


 いや、


 選べなかった。


「最適解だった」


 若い技師が言う。


「被害最小で、確実な方法だ」


「そうだね」


 ミレナは、頷く。


「でも」


 言葉が、続かない。


 アレンが、静かに言う。


「最適は、全体だ」


 全員が見る。


「個別じゃない」


 子供は助かった。


 だが、

 “最も良い結果”ではなかったかもしれない。


 それでも、


 最適解だった。


 それしか選べなかったから。


 母親が、何度も頭を下げる。


「ありがとうございました、本当に……」


 誰も、それを否定できない。


 正しい。


 すべて正しい。


 だが——


 ミレナは、拳を握る。


「……間違えられない」


 ぽつりと呟く。


「間違えられないから」

「他を選べない」


 それは、安全だ。


 だが同時に、


 可能性を捨てることでもある。


 子供は、担架で運ばれていく。


 命はある。


 だが、

 ほんの少しだけ、


 取りこぼしたものがある。


 誰も、それを責めない。


 責められない。


 正しかったからだ。


 あまりにも。


 アレンは、空を見上げる。


 境界は、消えている。


 だが、


 “選択できなかった感覚”だけが、

 静かに残っていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ