第103話 減るもの
境界の報告は、減っていた。
正確には――
「処理される前に終わる境界」が増えていた。
「……依頼、三日連続でゼロです」
ギルドの掲示板を見ながら、
若い冒険者が呟く。
以前なら、
毎日のように境界対応の依頼が貼り出されていた。
外縁部。
未踏地。
管理網外。
だが今は――
「発生自体は増えてる」
技師が補足する。
「でも全部、即処理されてる」
「俺たちの出番がないってことか」
「そうなります」
静かな空気。
悪いことではない。
むしろ理想的だ。
被害は減る。
危険も減る。
死ぬ理由が減る。
それでも――
何かが、引っかかる。
ミレナが、外縁地図を見ている。
「……こっち、止まってる」
「何がだ」
「境界」
外縁部。
管理網の届かない領域。
そこでは――
境界の発生が、極端に減っている。
「安定したってことじゃないのか?」
若い冒険者が言う。
「違う」
ミレナは首を振る。
「偏ってる」
境界は消えたわけではない。
ただ、
“出る場所を選んでいる”。
――管理網内だけに。
リーファが、静かに言う。
「外側が、切り捨てられてるみたい」
その言葉に、
誰もすぐに反応できない。
街の中。
人々は笑っている。
「最近、平和ね」
「怖い思い、しなくなった」
「管理ってすごいわ」
正しい。
全部、正しい。
だが――
商人が、ぽつりと漏らす。
「外の村、寄らなくなったな」
「危ないから?」
「いや……必要なくなった」
物流が、変わっている。
外縁を通らなくても、
安全なルートが成立する。
冒険者も、
外へ出る理由が減る。
未踏地も、
誰も踏まない。
――発見が、止まる。
夜。
ミレナは、アレンに言う。
「……これ、いいことですか?」
答えを求めているわけではない。
確認だ。
アレンは、少し考える。
「良い面もある」
「でも?」
「偏ってる」
同じ言葉。
だが、重みが違う。
「安全な場所に、すべてが寄る」
「危険な場所は、放置される」
「その結果、どうなると思う」
ミレナは、少しだけ目を伏せる。
「……外が死ぬ」
完全ではない。
だが、緩やかに。
人が来ない。
物が流れない。
境界も出ない。
停滞。
やがて――
消える。
若い冒険者が、拳を握る。
「でも、安全の方が大事だろ」
「そうだな」
アレンは否定しない。
「だから、難しい」
安全は正しい。
だが、
すべてが安全に収束すると、
変化が止まる。
その時――
世界は、どうなるのか。
遠くで、
また境界が発生する。
管理装置が反応し、
即座に収束する。
完璧な処理。
誰も傷つかない。
だが、
誰も、そこに行かない。
その事実が、
静かに残る。
減っているのは、
被害だけではない。
冒険も、
発見も、
外側も。
すべてが少しずつ、
削られている。
それでも、
誰もそれを、
はっきりとは否定できない。
正しいからだ。
あまりにも。
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