第101話 完璧な境界
昼下がりの中央区。
境界警報が鳴った。
高音ではない。
落ち着いた、規則的な音。
「規模、小」
「中心座標、管理網内」
技師の声が、淡々と告げる。
装置が、即座に光る。
干渉波が展開。
揺れの輪郭が、空中に映し出される。
円形。
安定。
拡大速度、極小。
「……理想的です」
若い技師が、息を吐く。
「自動抑制、開始」
境界は、まるで手順書通りに反応する。
干渉を受け入れ、
揺れは滑らかに収束へ向かう。
踏む必要もない。
現場判断もいらない。
被害ゼロ。
揺れ発生から消滅まで、
わずか三分。
静寂。
「完了」
報告は、短い。
誰も傷ついていない。
建物も無事。
混乱もない。
「完璧だな」
冒険者の一人が、苦笑する。
「これなら、俺たちいらないな」
冗談のはずだった。
だが、
誰も強く否定しない。
アレンは、境界があった場所を見ている。
違和感。
境界は、揺れながらも、
“踏まれる形”を維持していた。
干渉波が届く前から、
収束を前提にしているように。
「……待っていたな」
小さく呟く。
「何をです?」
ミレナが聞く。
「管理を」
境界は、
抵抗しなかった。
暴れなかった。
まるで、
正解が分かっているように。
数時間後。
別地区でも境界発生。
同様。
完璧な円形。
即時抑制。
被害ゼロ。
街の空気が、変わる。
「安心ですね」
住民が笑う。
「これなら、もう怖くない」
管理網は、機能している。
いや、機能しすぎている。
ミレナが、空を見上げる。
「……境界が」
「どうした」
「迷ってない」
以前の境界は、
揺れ方に癖があった。
暴れるものもあれば、
歪むものもあった。
だが今は――
最適解へ一直線。
選択肢がない。
その夜。
報告が相次ぐ。
被害ゼロ。
即時収束。
揺れの均一化。
エルドの解析結果が届く。
『波形のばらつきが減少している』
『確率分布が収束傾向』
収束。
その言葉が、胸に残る。
アレンは、街の外縁へ歩く。
小さな境界が、そこにも現れた。
管理すれば、即消える。
だが、アレンは干渉しない。
境界は、形を保ったまま揺れる。
暴れない。
拡大しない。
まるで――
“選択を待っている”。
数秒。
管理装置が自動で干渉を開始する。
境界は、素直に消えた。
静寂。
アレンは、ゆっくりと息を吐く。
完璧だ。
だが――
完璧すぎる。
境界は、災害ではなくなりつつある。
それは、
良いことのはずだ。
なのに、
胸の奥で、小さな違和感が広がる。
選ぶ余地が、なかった。
その事実だけが、
静かに残った。
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