(番外18)ルキフェル、2番目に好きな天使を語る
「だからさー、ルキフェルが2番目に好きな天使って、誰よ。悪魔でもいいけど」と、おれは聞いた。一番好きなのを聞かないのが、男子・女子ともにコイバナ・タイムのルールなのである。女子同士ではどうかしらないけど、男同士ではそうなっている。2番目に好きな子が男子同士で一番人気があるということはよくあることなので、女子はがっかりしすぎないで欲しい。
ルキフェルは、しぶしぶ、食器を片づけてさまざまなアルコール類と乾き物のおつまみがおいてある、折りたたみ式のテーブルの上に立体映像を浮かべた。
「口で説明するより、このほうがわかりやすいだろ」
出てきたのは、紫色の正八面体で、横にくるくる回っている……。
「これは……ラミエル? 攻撃するときには変形したりする?」
「それだとエヴァンゲリオンの盗作、というかパクリになっちゃうだろ。この子の名前はヒトには発音が難しいけど、強いていうなら縺翫、かな」
文字化けでよく出てくる字だ。
縺翫ちゃんは、回り続けている。
「この子、って言っていいかどうか不明だけど、この天使? のどこがいいんだよ」
「えーと、何考えてるかわからないところ」
要するに、おもしれー奴枠の、すこしずれたキャラね。不思議ちゃん枠かな。
「これ、縦にも回ることができるんだよ。おまけに、どこが頂点になっても、全体の形は変わらない」と、ルキフェルは言った。
確かに、横・縦・左右くるくるさせても、正八面体はわからない、あるいはかわらない。
*
「天使とか神とかは、ヒトにとっては富嶽三十六景の富士山みたいもんだよ」と、ルキフェルは言った。
「面白いから、その説明を続けて」
富士山単体の絵はともかく、富士山を背景に、ヒトが何かをしているとき、富士山は黙って見ている。見ているけれども感情は示さない。
大波にもまれる舟の中のヒト、大きな桶を作ってるヒト、雪の日に遊女たちと遊んでるヒト、山で材木を切っているヒト。それぞれは、ヒトの気持ちはわかるんだよね。ああしんどいうな、とか、頑張らなくちゃ、楽しいな、みたいな営みだね。富士山は遠くから見ている、いやむしろ、ただいる、って感じかな。
葛飾北斎は、なんのためにそんな絵を描いたのかはわからない。単純に、そういった絵が売れる、と考えただけかもしれない。
これの背景として、たとえば噴火する富士山とか、富士山から顔を出してるゴジラが描かれていたら、つまり日常の中に非日常を持ち込んだら、嘘としては面白くなるけど、絵としては意味を持ちすぎるんだ。
そう言いながら、ルキフェルはタブレットで富嶽三十六景のうち「駿州江尻」の絵を出し、その富士山に眼をタッチペンで描いた。
突風で吹き飛ばされそうになるヒトたち、吹き飛ばされているモノたちの中にあって、富士山とその「眼」は実になじんでいた。
「プロビデンスの目、かー」と、おれはうなづいた。
神はすべてを見通している、というその象徴。
*
おれは、正八面体の天使の一面にも、目を描いてみた。
くるくる回ると、こちらを向いたとき、一度だけウインクするようにしてみる。
「面白いねこれ」
おれたちは悪ノリして、8面全部に目を描いた。
ヒトの感覚としては違和感を持つべきだろうけど、そういうことやってみたくなるのよ、アルコールが回ると。
しばらくしたら、お隣のプリムラ、つまりプリシーがそっと覗きに来た。あまり楽しそうだったので、お邪魔したくなりました…、とのこと。
まあ一杯飲めよ、あんたも未成年じゃないんだろ、ほら、タコハイ。
もう、『赤毛のアン』の二次創作なんて、どうにでもなれ、ってんだ。




