003 信頼+友情=幼馴染
――幻想界。
多くの種族は此処から地球に訪れる。
過去はこの幻想界の領土を巡って争ったり、地球の覇権を掛けて様々な戦争を起こしたりと色々あったらしい。
遠い遠い昔の話。
普通に人に紛れて暮らす分には関係ない。
そう思ってたそうだ。
僕が生まれる数十年前まではね。
多種族との交流と新しい世界へ適応させる為の学校ハルモニアの設立された理由。
研究機関で科学者が行った最新の実験だった。
誰一人として予想出来なかった事態が発生する。
予測が出来ないからこそ実験をする事を決めた科学者達の傲慢。
その結果は正に彼らの予想外の結果をもたらした。
恐らく安全という楽観的な行為によって――
幻想界との境界が崩れたのである。
それまで特定の魔法を使える者だけが行き来した世界への通路が世界中で不規則に現れる。
最初の被害はヨーロッパの都市だった。
突如魔物が溢れる恐怖が大都市を襲った――
物理法則の通じない世界との遭遇。
警官や軍の通常兵器では倒せない怪物の出現。
その恐怖は瞬く間に世界中を駆け巡る。
大陸だけでなくありとあらゆる地域で同様の出来事が発生する。
人々は末世、世紀末、最終戦争を思い絶望する。
だが世界は、人類は死滅を免れた。
其の事態に対処したのは国でも勇者でもなかった。
人に紛れて暮らしてきた幻想や闇の住人と云われる人達だった。
そして世界は真実を知る。
しかしその後世界の混乱は続き――
大幅に人口を減らした人類は闇の人種を正式に認め、協定を築く
その後決められた取り決めの一つとしての政策の一つが学校の設立だった――
そう、全て僕が生まれる前の話だ。
僕を除く一族全員が関わったらしい。
なにせ、一番年の近い姉さんでさえ凄く――歳も離れてるんだ。
え、判らない、当然だよ、そんな事居ないのが判ってても口にできないどころか、考えるのさえ危ないよ。
まあ神祖の一族にも色々あったんだそうだ。
僕は生まれてから暫くは普通の神祖の子として育てられていた。
でも不思議な事に兄達のように乳房に噛み付く事は無かったんだそうだ。
乳離れも相当に遅かった事を今でも偶に揶揄われる。
そんな無意識の時代の事を云われてもどうしようもないし……
原因は判らないけど血は今でも吸えない。
お陰で僕は普通の人並みの生活しか出来なかった。
イザヤさんと最初に会ったのは僕がまだ屋敷から出てない頃だった。
日本の山の守護をしてきた彼女の一族も当時は相当に活躍したらしく日本地域の代表的存在になっている。
まあ、元々父さん達と交流があったらしい。
色々迷惑を掛けてた事もあったそうだが、折角同世代の娘と息子がいるのだからと引き合わせようという事になったのだとか……
彼女は其の頃から優秀で、大神の名に恥じない少女だった。
だからその刺激を受けて僕が何か変化を見せると期待したんだと思う。
まあ結果はご覧の通り、未だに血が吸えないからね。
そんな都合良く事は運ばなかった。
いや、寧ろあれは悪化したんじゃないかなあ。
「君が、“るくのくす”か」
「う、うん」
「言い難いから“るくす”な!」
「え」
「ルクス、私はおおがみ・いざやだ!」
「よ、宜しくミス、オオガミ」
「違う、ミスオオガミじゃない、オオガミ・イザヤだ」
このときは困ったなあ、僕は習いたての日本語での挨拶だったし、彼女はまだヨーロッパの言語が怪しいという状態だった。
お陰で彼女の念話に頼る羽目に陥る訳だが。
と言うよりだ、5歳の子供が意思疎通させようって無茶振りだよね。
千年単位で生きてるとちょっと思考が変になるみたいだ。
そのお陰で――
力の差も感じたけど、それよりそれが切っ掛けで日本語を覚えなきゃいけなくなった僕は大変だったんだ。
彼女は僕をルクス、僕が彼女を大神さんと呼ぶようになっていたんだけど、勉強の成果でファーストネームとファミリーネームの違いに気が付いたのだけど、後の祭りだった。
そうして知り合った僕達だったが、どちらが男か判らなかったと今でも云われる。
彼女は既に変身さえコントロール出来る優秀な子だったから勿論身体能力も高かった。
こっちは鍛えられているとは云えど魔力が一切コントロールどころか存在しない落ちこぼれだったんだ。
屋敷の庭や裏の森を走り回る彼女と遊ぶのは楽しかったけど、常に手を引いたのは彼女だった。
「ルクス、遊ぼう! 今日は駆けっこだ」
「わかった」
「いくぞー」
「うん」
「よーい、どっーん!」
――ドシュッ
地面から湧き上がる土煙が上がって一瞬で消え去る彼女。
「……もう見えないや……」
ああ、あの頃から本当に凄かったなあ。
ソレからも休みの度に彼女は必ず訪れてくれた。
一向に魔力が使えない僕の唯一の“幻種”の遊び友達だった。
他にも知り合いはいたけど、誰も僕とは遊ぼうとしなかった。
「遅いぞぉ、このまま森に突撃するんだから」
普通はこうなると嫌がるのだ。
「ハァハァ、待ってー」
「よし、じゃあ少し休憩しよう」
でも、そうなんだ、必ず彼女は待ってれた。
今回も同じだったもんな。
あの時……
「怪物!? 演習でキュクロープスが出るなんて」
最初に発見した奴はチームの斥候だった。
「馬鹿な攻撃が通じない!」
「駄目魔術も表面に傷がつく程度だ」
パーティーリーダーが攻撃を仕掛けても皮膚に遮られ、魔術を自慢してた奴が放った攻撃は通じなかった。
「逃げるぞ――俺たちだけなら逃げれる」
だから彼らの、パーティーリーダーの選択は正しかった。
間違いじゃない。
生き残ろうと誰もが思ったのだから。僕も逃げようと思った。
「そうだ、ソイツを置いていけば、急げ!」
斥候の男子生徒がそう言って僕を指差した時も――
そうだなと諦めた僕がいた。
「待て貴様」
彼女は僕を庇ってくれた。
だけど一度決まった流れは覆らない。
皆が生き残りたいと思ったんだから。
「半端者は俺たちを活かす為に犠牲になってくれるさ」
魔術を自慢してた奴がそう叫び走り出す。
「そうだ、役立たずより優秀な俺たちが生き残る事が正しい」
リーダーはそう唾を飛ばしながら叫び僕を突き飛ばした。
「貴様ら何を言って――行ったのか判っているのかぁ!?」
突き飛ばされた僕にはその光景がスローモーションに見えた。
攻撃してくるキュクロープスから僕を突き飛ばした彼女が足に攻撃を受けてしまうその時まで、僕は抗う事を忘れていたんだ。自分が半端者だと言われ慣れていたから。
だが、彼女はいつも僕を友達だと思ってくれていた。
だから何時も言わないような言葉で叱咤までしたのが判った。
「何をしている愚か者――貴様など役に立たぬのだ、逃げろ!」
あぁ――本当に良かった、彼女を助けれて。
逃げ出した彼らの処分は謹慎処分だったが、その行いが広まる事を恥じて自主的に転校すると僕の元には連絡が来た。
実際にはラウラ先生が脅したんじゃないかと思っている。
いや冗談じゃ無くて。
こんな出来損ないなんだけど、兄さん2人と姉さんにはもの凄く可愛がって貰っている。
世界中を回ったりしてる兄姉達だけど、僕に会いに戻ってきていた位だった。
あの人達に加えて両親が知ってしまったら……
この校舎どころか、この学校の存在が消されそうで怖い。
そういう意味でも僕が強くならないと駄目だ。
うん、冗談にならないよ。人間辞めて始祖とか真祖を名乗ってるのが暴れるのとは比較にならない。
僕は改めて強く成ろうと心に誓った。
大丈夫……
あの人達と同じ血を引いてるんだから――
大丈夫だよね?




