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002 僕×彼女=朔

 キュクロープス倒したまでは良かったんだけど。

 僕は其処で力尽きた。

 急激な覚醒と幻魔を作り出した事のダブルパンチかなあ。


 御免、起きていられないから――

 ちょっと休憩。


「ごめん、大神さん、ちょっと」

「え、何だルクス――おい! ルクス」

「寝る――」




 そうだ、寝ると言って僕は気を失ったんだ。

 目に映るのは緑の布ってことは救護テントか?

「ここは……」

「お、気が付いたか、全く、運ばれてきたときは焦ったぞ」

 え、この声……

「ラウラ先生?」

「おうよ」

 ああ、この尊大な喋り方なら間違いないや。


 って事は助かった?


「先生、大神さッゥ」

「おら、安静にしてろや、外傷は無いけど気を失ってたんだからな。それに大丈夫だっつうの、お前より傷は多かったが、奴は体質がアレだから問題ないさ」

 良かったけど、僕を此処まで運んだのか。

「そうですか」


「全く――知らせを受けたときは焦ったぞ、絶対お前は死んだと思ったよ」

 いや死ぬかとは思いましたよ。キュクロープスなんて怪物だったし。

「酷いなあ……でも死にませんでしたよ」

「ああ、命拾いしたわ。んで、残りの奴らは今説教中だからな」

「あー」

 俺を突き飛ばして逃げたからなあ、大神さんが教諭達に伝えていればそうなるよね。


「だいたいだ、幾ら自分が助かる為と言えど、お前を突き飛ばすとか死刑宣告書に自分でサインするようなもんだぞ、発覚してみろ、この学校の生徒も教諭も――チョン(これもん)だぜ?」

 そう言って彼女は首を掻き切る仕草をする。

 皆殺しになるだろうってことだけど……

「いやいや、幾らなんでも――」


 父さんと母さんは……

 いや無理だ父さんも母さんも暴れるな、それに何より兄姉さん達は押さえが効かなさそうだもんなあ。

「簡単に想像出来て嫌だなあ、アハハハ」

「だろ、全くお前が人が良すぎて問題になってないだけだぞマジで、洒落にもならん。まあ兎に角無事で何よりだ」


 ハハハ、無事ってあれ、そういえば傷が少ないな。

「そう言えばなんだか体が思ったよりも痛くない?」

「そうだ、来たときは驚いたぞ、お前やっと魔力が宿ったんだな、全く、危機にナニやってんだか」

「変な言い方しないで下さいよ!」


 あれ……

 魔力?


「魔力がある!」

「おうよ、まあお前の家基準じゃ話にならんだろうし、生徒としても最下位だろうけどよ、ある事に変わりはないぜ」

「魔力! え、それで傷が塞がった?」

「お前、一応は神祖吸血鬼なんだ、魔力さえあれば普通の怪我ぐらいなら治るわな」


 いや、あの拳で受けた傷って全身骨折レベルだったと思うんだけどなあ、治っちゃってるよ。


 それに魔力がある!

 いや、うん幻魔を創り出したんだから当たり前なんだけど、遂に僕にも魔力が……


 感慨深いなぁ。

 泣いてもいいよね。


「ま、これでお前もやっと半人前ってとこだ」

「はい、これは父さんや母さんが喜びますね」

「しかし、ククク、血が吸えないのに、プププ、どうやって、ブホッ」


 し、知ってるのか若しかして。


「チュウでもしたのか、ん~、せ・ん・せ・い・に言ってみな」


 何か忘れてる気がす――

「アッー!」

「おおう!? どうした、思い出して舞い上がったのか」


 違うよ、おい、いやうーん、キスを頼むよりはマシだったか。

 あれ?

 人生最大のチャンスを僕は失ったのかっ。


 ッ――


「イタッ、ア……」

「ほれ、お前の心臓の上に出てるだろ、刺青ぽいのがよ。お前のあのクソ兄貴と場所は違うが一緒だ」

「此処に――」


『主よ――』

 これは……

『お前か?』

『ああ、我は少女と主の魔力によって生まれた幻魔、出来れば主より名を賜りたい』


「先生……出来れば大神さんを呼んでもらえますか」

 コイツの名前を付けるならもう一つの魔力の親でもある彼女には居て貰いたい。

「ん、おお構わんぞ、起きたら呼ぼうと思ったしな、待ってろや」


 しかし、何時見ても可愛らしいなあ、態度は大きいのに、ギャップ萌えすぎるよね。

 しかも兄さんと同い年って。


「おい、今何か考えたか?」

「先生って美人だなあって」

「フッ当然だろう? 全く怪しからん目で見やがって、フンッ全くアイツの弟にしては見る目があるがな!」


 ふう、危ない!

 でも、うーん美人というか美少女なのは確かだからなあ。

 精魔って希少種族だし、ロリなのにナイスバディとか反則級なのに態度が尊大……


 普段は怖いんだけど其の割りに優しいし、こうして照れるのになぁ勿体無いよねえ。



 そんな危険な考えをしていたら、外で待機していたらしい大神さんが入ってきた。


「ルクス、良かった目が覚めて、ホントに……」

 ちょ!

「ちょ、大神さん、泣かないで」

「心配したんだぞ、突然魔法を使って倒したと思ったら、一言寝るって言いながら起きないし」

 ああ、心配掛けて御免なさい。


「ハッハッハ、悪い男だなあ、ルクスゥ、女を泣かすとは全く」

 やっぱり最低だこの人! 美人値から-100だよ全く。

「先生!? 茶化さないで、ホラ、大神さんが運んでくれたお陰で怪我もないし元気だし」

「良かった……」


 な、名付け所じゃなくなってしまった。

 大神さんが泣き止むまで待って漸く説明ができたのはそれから数分を要した。


 うん、説明もしないでぶっ倒れた僕が悪いよね。


「それで、今から僕の幻魔に名を与えるんだけど、大神さんにも立ち会って貰いたいなって」

「あの綺麗な黒銀の狼のか!」

「うん」

 目がキラキラしだした。やっぱり種族的に思うところもあるんだろうなあ。


「確か大神さんの名前も月に関係してるんだよね?」

「ああ、私の国の言葉で十六夜イザヨイとは月齢をさす言葉だ、私は満月の次の夜に生まれたんだが、その時の月が凄く綺麗だったらしくてな、それでイザヤと読むんだ」

「一応僕の名前も月に関係はしてるから、折角だし月に因んだ名前を付けたくて、でも余りこちらでは月に名前って付けないんだよね」

「ふむ、ならば……私の知っている限りでよければ――」

 そこからは一つ一つ種類を教えてくれた。

「と言った感じで色々と意味合いがあったりするんだが」

「うん、決めた、今日の月と同じでサクにしよう!」


『決まったぞ、お前の名前はサク、漢字というものだと朔だ』


 紋章の様に心臓の上に浮かんだ刺青――魔憑刻印が魔力(ウィスクラフ)の光を放つ――

 周りの魔素(エーテル)が反応して黒と金、それに白い輝きが生まれる。


『あり難く頂こう――朔か、主よ宜しく伝えて欲しい、この名に感謝を』


「大神さん朔が『感謝を』って言ってたよ」

「そうか、うん、しかし、私がルクスといい続けているのに、そのなぜ未だに大神と呼ぶ、私の名前で呼んでは、いや呼んで欲しい」


 あ、あのまた魅了の効果でも残ってた?

 アアア!

 謝ってないよ僕!


「アッー! 御免ね、あんな事頼んだし、その、あの時魔力の制御が出来てなかったからその魅了が発動したみたいで」

「いや、それは構わないんだ……」

「え?」

「クックック、鈍いからな、お前には名前で呼んで欲しいってことだルクス」


 名前でか、確かに友達なのに余所余所しいって言われ続けたもんな。


「わかったよ十六夜――さん」

「う、うむ」

「フフッ」

 そこ、笑わない、僕の大事な友達との感動の遣り取りなんだぞ!

 取り合えずは刺されないで済んだ、良かったあ。

 

 その時は何も考えてなかったけど、僕と彼女達との物語はこうして始まったんだ。

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