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001 始まり=意地×覚醒 

 神祖の吸血鬼なのに落ちこぼれと言われた少年の物語です。

 拙作ではありますがご愛読頂ければ……


「何をしているルクス――こいつ相手に貴様など役に立たぬのだ、逃げろ!」

 目の前にいるのは知性を持たない怪物。

 それも本当は現れないような凶悪な個体。

 新しい“通路”があるのかも知れない。


 だからって――

「だ、駄目だ、此処で逃げたら僕は、心まで役立たずになる」

 それに自分の事は判ってるさ、僕がこんな怪物相手に何の役にも立たない事ぐらい。

 彼女の方が本来なら強い。


 でも彼女が怪我をしたのは僕を庇ったからだ。

 だからこそ僕は逃げない。

 駄目だ、恐ろしくても、逃げちゃ駄目なんだ、でも怖い。


 足が凄くガクガクと震えてる、逃げ出せと心が訴える。

 でも、彼女を――唯一僕の為に残った女性を置いて逃げ出したら僕は自分を許せない。

 それは耐えられないよ、だから。


「僕は、傷ついても――ほら、死なない筈じゃないかっ! だから大神(オオガミ)さんこそ逃げて!」

「馬鹿を言うなお前は――」


 そうだ、僕は所詮は落ちこぼれの半端者だ、本当ならこの世界で僕の種族に敵う者はいない、神祖の一族、昼も夜も変わりなく過ごせる本物の竜の血っを受け継いだ生物、なのに僕は――

 魔力を持たない落ちこぼれだ。

 けど!

「それでも僕は逃げたくないんだっ」




 全くツキが無いどころじゃないっ、一ッ目、、キュクロープスが訓練演習に出るなんて。

 幸いにも周りは岩場で避けるのに少しは利用できそうだ。


 走り回って注意を引く、少しでいい、彼女が逃げ終えたら、僕も逃げよう。

 だから、早く逃げて。

 暴れまわる化け物の拳が僕を掠める。

 大丈夫だ、まだ、あたってない。


 転がって、這いずり回って。

 立ち上がって、又走る。

 幾ら僕が落ちこぼれでも!

 逃げるだけなら……


 何とか頑張って走り回る。


 こうやって此方に注意を引けば!

 彼女が助かる筈なんだ!

「僕を狙えよ怪――」

 ――ゴッ


 岩毎打ち抜いただとっ。

 クッ、な――

 避け切れなくて、奴の拳を貰ってしまった僕の体は吹き飛ぶ。

 くそ、凄く痛い筈の攻撃は息が出来なくなっただけだと思った。

 けど、僕の体はその一撃のせいで痛みを一瞬認識しなかっただけだ。

 地面を小枝のように転がって皮膚が裂けるのが判る。

 徐々に痛みが訪れる。

 凄く痛い。


「ガハッ」

 血を吐き出しているのか僕は。

 やっぱり僕は――

 只の落ちこぼれだ。


 格好悪いなぁ……

「ルクス!」

 あぁ、大神さんの声が聞こえる。


 どうして君は僕を抱えているんだ――


 アハハ、駄目だよ逃げないと……

 月の無い夜なんだ君の力も十分出ないだろう?

 こんな様だけど、僕を唯一ルクスと呼んでくれる君の為に頑張ったのに……

 これじゃ無駄死にじゃないか、締まらないなあ。


 ほら、服が汚れちゃう――





◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆




 ――レ――シ――タク――イ――マ――ダ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――







 どうしてだろう、まだ意識がある……

 それに、真っ白なここは……

 何処だろう、判らないけど凄く美味しい――

 でも、なんだかしょっぱいな。


 誰だろう、呼ぶのは、大神さん?

 そうか、早く逃げてよ、僕の為に泣いてくれるのは君だけだ。

 こんな半端な僕の為に君が死んでいい筈が無いんだよ。


 ああ、でもなんだろう、凄く――


 体が疼く。


 渇くんだ、心が求めてる、力が溢れるのに――


 凄く飲みたいと。


「駄目だよ、大神さん、逃げないと――」

「ルクス!? お前生きて」


 ああ、なんだろう、この力は、今なら、僕は――

 俺はコイツを――

 止められる!


 僕を抱える大神さんの後ろへと片手を伸ばした。


 ――ドスッ

 そう、高が物理的な攻撃でしかないんだ、“軽く”片手で受け止めれて当然だろう。


「誰に手ぇ出そうとしてんだ、一つ目如きがっ」

 こうして握りつぶすのも、()()たいした手間じゃない。

 ――グキャッバキィ

「グォゥオオオ」


「五月蝿いぞ、デカ物が」

 僕の至福の時間を邪魔するなよ。

 ああ、コイツから流れてくる“命”(魔力)は不味いな。


 彼女の涙とは大違いだよ

 握りつぶした手から吸い取って終わらせようと思ったけど……

 駄目だ、“喰らう”気にならない。


 流石に物理の力で押されると掴み続けるのも苦労するな。


「もう少し力があれば……」


 ああ、でも今なら判る、俺の為の力の源が何処にあるかが。

 いやしかし、コレは言うのは拙いよな。


「涙かおっぱいを吸わせてくれなんて言えない、流石に母乳っていってもな」


 そんな事を言ったら絶対に刺されると思う。

 でも、どうする僕は血が吸えないからな。


 それに、さっき僕を蘇生させたのは涙だった。

 きっと僕の為に泣いてくれた大神さんの涙が僕の力を解放したんだ。

 母も言っていた……僕は中々乳離れが出来なくて、ずっと乳ばかり吸っていて、幼少時の魔力はそれなりだったと。

 まさか涙もその範疇だとは思わなかったけど。


「何故涙か胸なんだ」

 ――そんな事は単純だろう。

「本能とでも云おうか、この欲求は、力の源を求める衝動なんだ」



「な、な涙でいいかっ」

 えっ――


 あれぇ?


「その涙でもいいだろうか、さ、流石にム、胸を晒すのは無理だ、ぼ、母乳も出ない」

「声に出てた?」

「ああ、ブツブツといい始めて突然な」


 ……

 うぉぉ穴は何処?

 ――ブンッ

 入り込める穴が欲しい!


 思わずキュクプロークスも投げちゃったよ。

 これはヒドイ、いや投げた事じゃないよ。

 フォォ!

 大神さんになんて事を口走って……


 けど、今は恥ずかしがっている場合じゃあないんだよな、近くに大木でもあれば生命力を吸い取れそうだけど、此処はお願いするしかないな。


「大神さん」

「な、なんだ」

「失礼します!」

「アッ」


 彼女の頭を抱えて口を寄せる。

 綺麗な瞳が僕を見つめているのが判る。


 僕は今からこの瞳に接吻するんだ。

 彼女の頬が赤く染まるのがわかる。


 そして――

 僕は出来るだけ優しく――

 彼女の瞳を“舐めた”。


 ああ、溢れてくる、なんて甘美なんだ――

 判る、これは大神と云われる人狼の力、そうか、だからコレほどに力が溢れるのかっ。


「有難う、大神さん」

「アン――ンッ」

 って何で抱きついてくるのさ?

 凄く魅力的なんだけど、拙いよね、明らかに変だ。


 拙い!

 これ勝手に魅了が発動してる。

 僕は理性を総動員させてなんとか引き剥がした。


「片付けてくるから、少し大人しく待っててね」

「あ、ああ」

 よかった、彼女も理性は残ってる、あ、後で謝らないと。


 許してくれると……いいなぁ。


「コレが空気中の魔素(エーテル)……」

 ああ、そうかコレが魔力を取り込む感覚か、体に入り込むこの力なら――

 神祖に手を出した事を後悔しろ単眼。


 これが全能感というのだろうか。

 そうか、本能で判るんだな、怯えるのも仕方ないさ、この魔力の溢れ方は異常だからな。


 でも、お前は許さない、彼女を傷つけただろ?


 だから、これでお前を屠ってやるさ、今なら生み出せる。

 神祖だけが使える、自分に付き従う従魔を作る魔法。

「従え――『ファントムベウル』(幻影大狼)

 俺の魔力と彼女の力を合わせた幻魔。


 巨大だと思ったキュクロープスが小さく見える程の巨体。

 そうさ、こいつがお前を屠る者だ。

 判るだろう、圧倒的な力の差が。


「喰らい尽くせ」

 俺の命令に幻魔がその唸り声で応じる。

 全てを喰らう魔狼の唸り声が響き渡る。


「グルゥゥオオオ――」

 現れた幻魔は黒銀の巨体を躍動させる。

 キュクロープス如き相手にならないと蹂躙する。

「ガアアア――アァァ」

 断末魔を上げた化け物は爪の一撃に切り裂かれ、牙で喉笛を食い破られて絶命した。


「ワァゥォーン」

 従魔が勝利を告げる雄叫びは雄雄しかった。

 


 こうして僕と彼女は助かった。

 不思議な、いや、恥かしい僕の変化と共に。

 ※瞳を舐める行為は衛生上宜しくありません。主人公は吸血鬼ですから雑菌消毒が出来ているだけです、される方も人外だから成り立っています。芸能人がやろうと真似はしないようにして下さい。

 如何しても体験したいのなら瞼の上からする事をお勧めしますが――決して推奨するものでは在りません。


 出来るだけ毎日の更新を目指しますので応援頂ければ幸いです。


                       せおはやみ

 

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