026 聖女-矛盾=躾
「あなたってやり込める時には、俺様モードの様にで、その素敵でしたわ」
「うむ、ちょっとゾクッとした」
授業の合間になり、イアンスと十六夜からこんな風にマーリアとのやり取りを評されたのだけど、二人とも変な性癖になっちゃったりしてないよね!?
だってあのモードにして訓練させたのは二人と姉さんだからね。
と言っても目覚めさせたのだのなら受け入れるけどさ。
「まあ、あの暴論なら、反論するのは判るのだが、あなたの方法は以外だったのだ、まさか汗でやり込めるとは……」
「ああ、あれね、実際発汗でも変化は判るけどそれ以上に表情、動悸、が本命かな。汗だと思い込んでいると次があったとき見破りやすくなるじゃないか」
「そうとう腹を立てましたのね、あなたがするにしては少々厳し目の対応ですもの」
そうか、うーん、確かにちょっと腹はたったからなあ。
やり過ぎでは無いと思うけど女性にとってはそうでもないのか。
でもね、あの考え方はハルモニアに来たからにはこれ以上悪化する前に矯正する方が彼女の為だと思うんだよなぁ。
それには此方に注意を向けて休み時間になると来るほどにしておかないと。
「だってさ、仮に罪を犯した闇の住人がいるから僕らを悪だと断じるのなら、世界で戦争を繰り返し、様々な罪を犯し続ける人類は一体何なんだろうかって事になるじゃないか、ねえ、マーリア? 盗み聞きは上品じゃないよ」
「なっ」
「驚かなくても、マーリア、その状態は隠してないさ、そもそも先ほどから体が固まっているのに耳がピクピクと動きすぎだよ」
斜め前の席に座って微動もせずにいれば判るよ普通。
だからこっちは突っ込み気分で声を掛けたのにマーリアの返しは想像したそれとは違った。
まあ、アタフタした状態になったのは読みどおりだったんだけどね。
「と、突然自分の話題になれば固まるのは当然だろうが、そ、それになんだ先ほどのアナタとは、貴様らもしや」
顔を真っ赤にしながら叫んだ内容……
その台詞はクラス中の聞き耳を立てていた連中にも効果は抜群だった。
十六夜と僕が中がいいのは知れ渡っていたけど、3人揃って休みを取って、同時に復帰、そしてイアンスが常に一緒にいる事は勿論の事だが、二人して僕の事を『アナタ』呼びに変わっているとなれば気にもなるだろうなあ。
だけど先日の件があるし、もとより僕に親しく声を掛けるほどの仲の者がいないから聞けなかった、そこにこの流れだ、それはもう興味深々になるかぁ。
それが例え問題発言の聖女だとしても、周囲からすれば「上手く聞きだしたな」となる訳だ。
「あら、そんなの簡単な事でしてよ、私達ルクス様の妻ですもの」
だけどイアンスの返答は真実をそれは見事に、堂々と告げた。
「妻? 達? 簡単?」
あまりにも堂々としてて理解が追いつかなかったかな?
そのままの意味だと思うぞ。
「うむ、妻が夫をあなたと呼ぶのに何の問題がある」
何を疑問に思うのだと十六夜も堂々としてるけど、まあ普通は驚くと思うよ。
僕もある日突然級友達が休んで結婚してたら驚く自信があるさ。
「き、貴様、私と同じ年齢にも関わらず、ふ、二人も妻を持っているだと、貴様鬼畜かっ」
って、おい、流石にその評価は酷いだろう。
そして教室はそんな僕の心情は関係なしにざわめいた。
――ザワッ
「何!」「くそ、憧れの二人同時攻略だと」「休みの間に何が」「まさか一緒にいた」「あの言葉遣いにやられたの」「何故俺では無いのか」「私を放置して……」
人聞きが悪い、それとざわめき過ぎだろうお前ら……
それとなんか変なの混じってるのはアイツか。
あれは無視、無視、魂が穢れる。
「年齢はどうか知らないが、僕の立場で妻が複数いることに君たちが言う法律上でも問題がないのに何故鬼畜などと云われなくてはならないのか――不愉快だな、高々人の作り上げた宗教的な偏見などという下らない理由で人の人生を貶すのはどうかと思うのだけれども。それよりも先ほどの問いに答えてから僕らの事を悪し様に言って欲しいね」
「人を殺す種族だろう、吸血鬼とは」
「問いに答えてないし、違うよ、仮に悪し様に扱おうとするならば君は相手の事をもっとよく知るべきだ、ポラリス聖堂騎士団でどのように教えられたのか、その辺りの問題もあるけど、君は何か理由があってそう頑なに思い込んでいる節がある。でなくてはハルモニアに送り込まれるなんて考えられない」
民族でも宗教でもそうだ、中には信じられない事を本当にやる民族国家、宗教はある。
だが、だからと言って10人が10人、100人いたら100人全員が同じだと全てを決め付けるのがどれだけ危険な行為か知る必要がある。
相手が子供的な感情で向かってくるなら尚の事だろう。
この子の場合は――
そうだな、聖女であるとなれば人類としては善人にカウントされるだろう。
だが言動だけ聞けば今の世の中では異質だ異端と言ってもいい。
でも僕がそれをもってポラリス聖堂騎士団、聖女がこうなのだから人類全てこうだと決め付ければこの上ない暴論になるのと一緒だ。
民族なら先祖や国家からそういう洗脳教育を受けている可能性も考えられるし、宗教なんてものは洗脳の最たる物だからね、死という人類の避けられない問題を餌に悲しみや苦しみ、不安を助長して信仰という言葉で助けると同時に洗脳するんだ、信じていれば救われるっていう具合にだ。
マーリアも何かがあってそれから逃れる為に無理矢理信じ込もうとしてる風に感じるんだよね。
吸血鬼限定で嫌っている節も見られるし。
吸血鬼が判り易い闇の住人代表だと言えなくもないけれど、教会は無視して考えたとして、騎士団が相手にした事件の件数で言えば吸血鬼の事件なんて数える程の筈だ。
なにせ他家の問題も含めて吸血鬼の処罰はドラクルの眷属が受け持っているのだから。
そして騎士団の管理運営をドラクルがやっているという事実は大きい。
となれば、結論は彼女の個人的な仇の線が浮かんでくる、けれども、流石に仇がどうこうという話は相手からさせなければならないからね。
「マーリアさん、取り敢えずハルモニアでは、いや今の世界でその考え方は危険だよ、確かに僕たちは人間とは違う生き物だけどこうして意思の疎通ができる存在だ。人間に人種という考えがあるのと同じように僕らにとって種族とはそれぐらいの違いでしかない。僕からすれば人も精霊種でさえ同じだ、これからの世界はそうして過ごさなきゃいけなくなったんだよ、人の手によってね」
「だからと言って、私と同じ年で二人も妻を持つのはどうかと思うぞ!」
まて、なぜ真面目な話をしていたのに、そちらに話を持っていく。
そして如何して教室が静寂に包まれているんだ。
「そんなのは簡単だ、答えるまでも無いのだが」
「やはり鬼畜――」
「人聞きが悪いだろうが、僕が二人を愛しているからに決まっとろうが、人の話は正確に読み取れこのなんちゃって聖女」
なんでこんな言い争いに……
だがこの子の言動は許せない。
「貴様なんちゃってとは、侮辱したな」
「君のどこをどう受け取れば“聖女”なのかとことん問い詰めたいな、なんちゃってでも聖女と呼んだだけ感謝して欲しいぞ」
「私の何処が聖女ではないと言うのだ」
この自信は何なのだろうか、一体何処から自信が沸いてくるのか、ちょっと興味が沸いた。
いいだろう、下らない事だけれども、相手をしようじゃないか。
「まず、君の聖女の前には“戦闘”という一言がつく、これは武力を振るう聖女という事だな」
「そうだ当たり前だろう」
「ならいっそ聖騎士とでも名乗ればいいじゃないか、他者を傷つける事を生業としておいて聖人と名乗るなどなんちゃって以外のなんだというのだ」
まぁ原因の一因が父さんの書物なんだろうけどなっ。
「それにだ、思慮も深くなく、戦闘的部分を重視しすぎている。ハルモニアにくるだけの腕前があるのだろうが、知識、情報の少なさ、精神的な未熟さ、そして常識のない態度――――これで君の何処が一人前の聖女だっていうのかな、言ってみろ」
――クズ
あれ?
「う、うう」
「あなた、その辺りで許してはどうだろうか」
「ふぅ、いい罵りでしたわ、ではなくて、もう精神値が下限を振り切ってそうですわよ」
なんだか言い始めたら止まらなかっただけなんだけど、おかしいな、俺様モードではないのに、やり込めたくなちゃったよ。
なんかブツブツと言っててドヨーンとした表情になっていると思ったら……
これが失意体前屈か、女子がしてると更にこうスパンキングか顎を持ち上げて虐めたくなりそうだけど止めておこう、泣いているし、当然なんだけどね。
「まあ、今後に期待って意味だからな『なんちゃってって』いいかマーリア、人間は努力次第だ」
「う、うん、グス……成長の余地はあると特別教官にも言われてた……グス」
どうやらやり過ぎたようだ……
なぜフォローまで僕がしないといけないのか。
それよりだ……
一つ聞き逃せない単語があったよね。
「なあ、その特別教官様はなんて言ってたんだ」
「ヒグ、グズズズ――」
「あら、いけませんわ、こちらをお使いなさいませ」
どれだけ打たれ弱いのだろうか……
たったあれだけで心が折れるって相当弱いぞ?
あれ、弱いだけだよね?
「そ、その『貴女は問題も多いけれど、それを克服すれば、更に伸びる余地もあるわぁ、そうね、いっそ原因となる対象のいるハルモニアに行けば克服もできるかも』と言われた……」
「ふっ、フフフ」
「「あなた?」」
ああ、声まねというか良くぞその言い回しを覚えていたねマーリア、ある意味それは才能だと思うよ、よく特徴を掴んでいたと言えるよ。
今度機会があったら美味しいスイーツでも差し入れてあげよう……
だって、元凶が確定したのだから。
さあ泣き止んだのだから教えてもらおうか、その教官の事をね。
「そういうことか、うん、凄くすばらしい教官だったんだろうなあ」
「ああ、女の私が言うのもなんだが、戦闘技術といい、振る舞いといい、その容姿といい、女子に大人気の憧れの女性でな、偶にしか来て下さらないのだが、ヴラディエラ特別教官の特訓は大人気――なんだがどうしたのだ」
ククク、姉さん、お茶目だなあ、ヴラディエラの方を名乗っていたのか……
そうかそうか、どうやって遣り返そうか。
「いや、そうか。だがな、いいか? その人の言っていた克服するっていうのは、決して喧嘩を吹っかけて相手を倒すとかそういう話じゃないぞ」
「え!?」
そこで驚くなよ!
本当にそうおもってたってことかっ。
図星ってもうやだこの聖女。
「で、ではどういう意味だったのだ、克服とはそういう意味ではないのか!」
「克服ってのは自分の抱える問題に向き合って乗り越えるって意味だと思うけど?」
「な・ん・だ・と」
いやショックの受け方がおかしい。
あと落ち込むのはいいけど失意体前屈からそろそろ普通の体勢にもどってくれないかな。
「おいおい、ドラクルがやべえ」「ああ、やっぱり神祖は――」「即効で女を――」「二人手に入れただけじゃ満足しないとか――」「ちょっと抱かれてみたいかも」「良い男になっちゃった」
おいお前ら憶測が酷いぞ、特に最後のは変だしお前男の――
ってジルかぁ……
なんで変なのしか居ないんだよ。
「なんにせよ、何を抱えているのか知らないけど、吸血鬼を憎むっていうならさ、まず吸血鬼とはどんなものかよく知ることだね」
「判った……やってみる」
なかなかいい返事だ。
僕もなかなかいいアドバイスをした、そうこの時にはそう思っていたんだ。
やってみるっていう意味をもっと考えておくべきだったなぁ僕。




