025 聖女×姉=問題児
さて、学校に入って数時間後。
何故か僕の前には一人の美少女が立っていて、睨みつけている。
そのせいで十六夜もイアンスも凄い殺気をはなってるんだけど。
こんな状況になんでなったかだけど、まずこの子がポラリス聖堂騎士団の戦闘聖女だって事だ。
――ポラリス聖堂騎士団――
最古の騎士団と言われ、現代社会に結社として存在する対幻想界専門の武装集団の名称で、長らく歴史の裏で闇の勢力を敵と認識して活動していた人々。特に戦闘聖女は祓魔師の中でもエリートで“人に害をなす闇の住人”にとっては対魔の専門家として恐れられていた。
彼らは幻想界との境界が崩れ、“通路”が現れたことによって初めて表の世界にその姿を現した。
「えーと今日転校してきたマリーアさんだったよね、何か用事かな、僕はルクスノクス・ヴラディスラウス・アダマース・ドラクル、長いからドラクルと呼んでもらえると――」
「ハッ貴様らと馴れ合う? 何を戯けた事を、たとえ幻想界より沸きでる敵をともに倒そうと貴様らが私の敵であることは変わらんだろうがっ」
僕と話した最初の言葉がこれって何?
うん、世界は代わっても代わらない事はある。
仕方が無い事かもなとは思う、許容は出来ないことだけどね。
ふう、まだ吸血鬼=敵を地でいく戦闘聖女の教育が続いている訳じゃないよね?
ポラリス聖堂騎士団の話は悲劇の集団とも言える。
そうして世界の表に出てくる機会を得たまでは良かったが、彼らに怪物の大規模進行まで食い止める術はなかった。
そう、現実は非常なものであり、世界を救ったのは敵であると認識し排除し続けた闇の住人達の手によるものだったんだ。
ずっと世界の為に戦い続け、いち早く危機に際して行動したにも関わらず、彼らは賞賛を得ることができなかった。
何故なら母体であった教団は幻想界の登場によって世界最大の勢力から坂を転がるように信用を無くしその地位を失ってしまったから。
想像してみて欲しい、十字架を持とうが、信仰を持とうが倒せない魔物や怪物相手の戦いを。
そんな絶望的な状況に人々は何を思っただろうか。
ポラリス聖堂騎士団を除く世界中の教団組織は無力だった。
そういう意味ではどの宗教も似たり寄ったりであったのだが……
何より拙かったのは世界を救ったのが彼らが成立以来“敵”としていた闇の住人だったことだ、この事実は消すことが出来ず、批判が生まれるのは当然の流れだった。
そして母体の団体規模は瞬く間に縮小した。
金に欲をだし、ワインを聖なる酒として飲み、ポラリス聖堂騎士団のような本当の対魔ができない者たちの末路としては仕方が無かった。
だが、ポラリス聖堂騎士団のみは、その実力は高く評価され、現代でも人間勢力としての対魔集団として政府の認可を受けて活躍している。
故に目の前の彼女ポラリス聖堂騎士団所属の戦闘聖女として存在する。
だからといって彼女、マーリア・ローゼ・ハーマンの台詞は聞き捨てならない。
もうポラリス聖堂騎士団は僕ら闇の住人を敵視しても良いとは言えないからだ。
「えーとマーリアさんじゃなくてハーマンさんと言ったほうがいいかな、なんで僕らが敵なのかな?」
一応は理由を知っておきたいなあ。
色々と事情があるなら知っておかないとこれから級友を常に警戒とか嫌だし。
「そうだぞ、ポラリスとて今は共に戦う組織だろうに、だから留学したのではないのか」
「そもそも私たちの世代には犯罪者はでておりませんわよ、しかも神祖を相手になんという無礼な」
十六夜とイアンスの言っていることは正しい。
ポラリスの教育機関からこうして転校してきたことからも判るがもう表立っても何も敵対組織じゃないんだ。
神祖云々は別としても先日まで一般人だった僕を捕まえて犯罪者扱いも勘弁してほしいな。
「私の習った過去から考えても貴様らは、特に吸血鬼であるお前たちは人の血をすすってきた悪だ! 現に未だ世界各地では吸血事件が起こるではないか」
なるほど、主張はそういうことか……
うーんどうしたものか、ソロソロこうした出来事にもドラクル家は対処すべきだと思うんだよね。
さて、どうして僕がさっきの話を考える必要があったのかだけど、勿論、目の前の美少女に関係するからなんだけど、その前にもう少し続きがあるんだよね、まあ、予想通り、この話には裏が当然のようにある。
マッチポンプじゃないのが唯一の救いなんだけど、例によって例の如くこの組織の設立には僕の父さんが深く、それはもう深く関わっている。
というか、世界中の宗教組織が父さんの作った書物をありがたがっているのは述べたと思うけども、この教団と騎士団に関してはもっと積極的に関わった。
下手に眷属ばかり増やし治安維持をするのもどうかと考えた父さんが、闇の住人の犯罪者から人間を守るのに人間も自身で守れとばかりに組織その物を作ったのが始まりだ。
更に騎士団も立ち上げて、人間の中で能力のある者を集めて教育し、人でも使える魔術の武具などを与えて祓魔師に仕立てたんだもの。
うん、悪いことではないし寧ろ人にとっては得になった話しだ、けれども性質の悪い話でもある。
諺に「木の葉を隠すなら森の中」とあるが、まさか組織の設立し未だに影響力を持つ人物がまさか闇の住人だとは思わなかったんじゃないかな。
未だに数年の交代だが、上層部の人間は全てドラクル家の眷属で構成されているのは、余りに事実がセンセーショナルすぎるからだって言ってたけど、その為に真実を知らない騎士団員も当然存在する。
その為に僕の今の現状に繋がるのだが……
お解り頂けただろうか、ある意味、因果応報の業だけが僕に降りかかっている。
なんだこの理不尽。
僕に非って一切ないじゃないか、だけどこういう風にこの手の思想を持つと考えるんだよ。
「その過去の悪逆非道な行いによって貴様は存在するのだから、存在そのものが悪だろう」
ってね。
はぁ……
どうして婚約事件が一応の収束をみたっていうのに次から次へとこうした問題が湧き上がるかな。
というかだ、ハルモニアは調和を目指す学校なのに、今時人間の一般能力者でも思わないような危険思想の女の子がよく留学できたよね。
それともそれでもこっちに転校するだけの実力を持つ中で最高の成績を収める程だったのか、問題児過ぎてこちらに丸投げしたか……
おい、後者だろうこれ。
犯人は……
だれだ、アーティール兄さん、シュテンツ兄さんは真面目だからこういうときに一報入れるな。
という事はだ、確実にヴィルヴァーラ姉さんの仕業じゃないか!
――ふ、ふふふ
またお仕置きしないといけないのか。
「何を貴様笑っている」
「ああ、失礼、君がどうしてこのハルモニアに来たのか予想ができてね」
「なっ」
「転校に際して注意はおそらく煩いほどに受けたはずだよ、敵対的な行動はとるなとか、問題は絶対に起こすなってね。違うかな?」
あぁその顔の筋肉の動きが一瞬止まった事が事実だと言ってるよ。
「ふむ、やっぱりそうか」
「何を根拠に――」
「根拠はまあ君の分泌する匂いも変わったからかな、嘘をつこうとしたから変化したんだね」
「ナァ!」
まあ正確な事を教えないのも、態とこういったのも教育だ。
匂いの違いに驚愕するがいい!
体温の変化、汗の量、ホルモン、そして総合してフレグランスをつけようが人はありとあらゆる場所から汗をかくし、フレグランスもその温度や汗などで香りは変化する。
でも決め手は顔の表情を固定しようとした事。
それに鼓動の速度の微妙な変化かな。
鼓動は判り易いし、嘘をつこうと準備するからこそ無意識に訓練した自然なままの表情に固定しようとしてしまったんだよ。
姉さんなんて緊張すらしない。
自己暗示に近いからね、嘘をついていると思ってないんだあの人は……
クッ、腹が立ってきた、でもこれにも意味があるかもしれないと思うと――
本当に厄介だよあの人は。
空中に浮いた幻視した姉さんの顔は物凄いいい微笑だった。




