023 意地×愛情=星
なんだか嬉しすぎて絶望しそうな構想がされていた時に襖越しに声がかかった。
「御館様――」
「うむ、どうした構わぬ、ここにいるのは家族だ」
「ハッ、では」
――スッ
「失礼します、ご無沙汰しております、ルクス様。先ずは用件のみで失礼を。現在表に犬上家のご子息達が訪れておりまして、少々騒いでおりますが八房達とで対処しても宜しゅう御座いますか」
伏さんが顔を出してそう告げる。
この人は分家筋ではなく元食客としてやってきたのだとか。
ずっと十六夜の世話役をしてたので僕とも面識がある。
「ふむ、犬上の跡取り達か、全く何処で聞きつけてくるのか」
「ああ、それは“あれ”が原因だと思いますよ」
「成る程そういえば、そうだったね。伏さんそれでは随分と慌てているのではないか?」
一応我が家の眷属が制圧したであろう事も伝えたらニヤっと口角を歪ませた弦月さん……
とっても悪い顔してますよ?
「はい、それはもう慌ててるのと苦虫を飲み込んだような顔でお越しですよ」
「高が分家とは言わんが……全く、愚かな、力の差が見えないか。これも平和になった証のようなものかもしれんな」
「“あの”ドラクル家に戦を仕掛けるなど、私には信じられぬ事ではございますが……」
我が家はどれだけ危険物扱いなのかと嘆きたくなるが、事実だから致し方あるまい。
でも決して虐殺者とかじゃないから。
「まあいい、仕方が無い一応は分家の総括を任せている家の一つだ、会おう。ルクス君済まないが――」
「元々はその為にやってきたようなものですから、こちらから是非合わせて頂ければと」
「うむ、ではそうしよう、伏さんそういう訳だから庭へ通してやってくれ」
そして、庭に一人の青年を先頭にズラっと大神分家筋の人たちが集まった。
既にボロボロの人もいるのだが、襲撃から逃げ延びた人もいるのか、中々いい腕をしてるか、逃げに徹したかだね。
「なんていうの? 本家の御館様といってもさ、俺らを庭に通してとか……愚弄するにも程がありませんかねぇ?」
うーんその前に本家に現れるのにその格好と喋り方をどうにかした方がいいと思うよ、どこのチンピラかというような格好に口調だもの。
あれだ、なんだったか少年犯罪者のリーダーの様な傾くって言うんだっけ?
フワフワの襟とか裾についた服装……
それで本家に来るってどういう神経してるんだろう。
弦月さんも皆も格好を見て『どの口で言うんだ』という表情になったもの。
「お主、その格好で本家を訪れておいて良くぞそのような事を口にするものだ、確かに貴様は分家筆頭の息子ではある。だがな、分家の当主ですらなく、礼を持たぬ相手に対して此方が礼を尽くす必要が何故あるのか、己が正しいと思うならば言ってみよ」
「ハッ、これだ、何かあったら格好だなんだと、これだから爺臭い長生きだけの年寄りってのは」
――ブチィ
あ、幻聴かなあ、幻聴が聞こえたよ。
「ほう、貴様、分家でありながらそれなりの力を持つからと言って少々傲慢にすぎるな……」
「若いってのは意見をバシっというもんすよ。ほら俺って大物ですし、息子にして損は無いって言ってるじゃないっすか」
「控えろ貴様、それ以上の暴言は――」
弦月さんの顳顬が浮きだってるし、案内してきた八房さんも切れ掛かってるよ。
「オッサンはひっこんでろって、ほら其処の坊主よりオレの方がイケてるっしょ十六夜ちゃん、どうよ今晩一緒に過ごしたらそれだけで離れられ――」
――バキィ
――ブチィ
アァ?
貴様如きが何口走ってんだぁおい、二度と喋るなよ?
――ズザザザー
あ、しまったツイ。
兄さん達の修行のせいで殴ると思った瞬間には打ち抜いてた。
うーん、弦月さんに教えてもらったのと兄さんのがミックスされてるんだよなあ。
「すいません、つい手が出てました」
流石に聞き捨てならないって思う前に体が動いてたよ、殴ってから気がついた。
十六夜とイアンスは頷いているから問題ないとして……
弦月さんと望さんは――
笑ってた、目を見開いているのはまだ僕の最近の話を聞いていなかった伏さんや八房さんと分家の人達か……
「ほう、いやいや、魔力を得ていたのは気がついていたのだがな、ふむ、以前の修行が完全に開花したという所か、フハハ、好い、実に好いな、いい義息子が出来たものだ」
「ぐぅ、クソ、ななんだ……クソがっ、いてえ、フザケヤガッテ!」
一応は謝ったけどこいつには謝る気もない、幸いにも弦月さんは気にしてないし。
全力じゃないけど大きな口を叩くだけあったってことかな、それともやっぱり僕だとこんな物ってとこか。
まあ僕は高揚してブーストしてなきゃこんなもんか、もっと努力しないといけないな。
で、変身までしてどうする気なんだろう。
って言うまでもないか。
「ブッコロス」
――十六夜に無礼な事いったよなあ……
「十六夜」
「ハィ―――ンッ」
「アラアラ」
「ふむ、ほう……これはこれは」
「ちょっとしたドーピングに見えるだろうけど俺は神祖だからな、これも俺の実力の内ってことでいいよなぁ――俺への暴言だったらまだ我慢しただろうに……俺の嫁に何言ってくれたんだ?」
「グッ、スコシ魔力ガ増シタダケノガキガ」
――ドゴォ
「ウゲェ」
「誰が喋っていいって許可したよ?」
一応“まだ”俺は冷静な状態だな、うん、ちょっと高揚感はあるけどあの状態じゃあない。
「そもそもだ、十六夜の結婚に他人であるお前らが口出しできると本気で思ったか? そこのボロボロの奴、お前だお前、俺の襲撃を予定してた奴は今日我が家の眷属がちょっとお仕置きしたんだがな、その怪我はどうしたんだ、言ってみろ」
「ハ……ッ」
「言えない? 手前らがやろうとしたことはそうやって堂々と言えないような事なんだ、少なくとも大神の分家を名乗る眷族だろうがよ、それがそんなんでいいと思ってんのか? 一回だけだ、ドラクルは別に非情なんじゃない、だから今回の襲撃は無かった。それでいい、だけど次は――無い」
「し、失礼した、ワシ等は……」
「別に言い訳も罪の擦り合いを聞きたいんじゃないんだ、判ったら祝いの言葉だけでいいさ」
「「分家一同、十六夜様とルクノクス様のご成婚を心よりお祝い申し上げます」」
ま、これでいいか……
殺すとか物騒でイカンよな。
と思ってたんだがな。
「俺ハ、俺ハミトメネエゾォ」
「お前さ……俺のさっきの攻撃なんて本気じゃないのにまだやる気か、なんの為だ、上に行くためだとか抜かしたら殺すぞ?」
「クッ、俺ハ家柄ダケで分家ニアマンジネエ!」
駄目だな、反省が必要だ、全身の毛を刈り取ってやろうかとも思ったけど、誰得だからな、ぶっ飛ばそう。
「一回ぶっとんで反省してこいや、少なくとも変身するだけの力があるんだ死なねえように歯ぁ食いしばれよ!」
ったく、そんな理由で十六夜を好きだとか抜かすなよ。
一応はご祝儀だ、死なない程度に抑えておいてやる。
――ドゴォッ
取り敢えずこうして空を飛んでいった分家の青年――犬上雅貴――が星となって一件は落着した。




