022 和+洋=幻想
そんなこんなで帰宅したものの、完全な解決には至っていない。
さらに、十六夜の分家からの反対を押さえ込み了承も貰わなければならない。
まずは、フリードリッヒの問題をどうするか――
「取り敢えず、フリードリッヒはこのまま諦めてくれればいいんだけど、警戒だけはしておいて、僕は先に十六夜の実家大神家に挨拶に伺うよ、じゃないと失礼だしね」
「我が家の両親はルクスの事も好く思っているからそんな急が――」
「そうですわ、我が家を訪れたのですから当然次は十六夜さんの実家へ行くべきですわね」
イアンスが十六夜の遠慮を抑えてくれる。
こういう時に十六夜はどちらかというと自己の事を後回しにするんだよね。
「小父さんたちが僕の事を悪く思っていないのは知ってるけど、やっぱり挨拶は早いに越したことはないさ、犬上家とかが待ち伏せはしてるだろうけど、その辺りは葛葉からの報告で判っているし、今回は眷属の力も借りて完全に押さえ込んで伺おう、明らかな敵対行為だし」
下手に手出しさせるよりはその方がいいと思うんだよね。
はっきり言えば過剰戦力だけど、圧倒的に制圧した方がこういった場合は此方にも分家側にも被害が増えないだろう。
うん、それでいこう。
「ルクス坊ちゃま、いえ、ルクス様のご命令とあれば我ら眷属の総力を上げまして――」
「セヴァス、やりすぎは駄目だよ、吸血鬼の上位眷属の力があれば満月でもなければ確実に押さえ込めるだけの力が僕等にはあるんだからね、あくまで抵抗をやめない場合のみにしておいて、僕の奥さんの眷属でもあるんだ」
「ハッ、お任せくださいませ」
眷属の総力まであげてどうするんだいセヴァス。
釘を刺しておかないと殲滅しちゃいましたとかになりかねないんだった……
まあ、これだけ言っておけば上手くやってくれるのは間違いない。
僕達は指示をすると即座に大神の本家へと足を運んだ。
勿論、襲撃の手が僕に及ぶ事はなかった。
誰も傷ついてないといいなあ……
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「ご無沙汰しています」
「久しぶりだねルクス君、息災の様で何よりだ、道中も手間を取らせた」
「あらあら、暫く見ないうちに別人のようになっちゃったわ」
来客用の応接室ではなく、本来は家族用の和室の一室に通された僕は久々に正座をして対面した。
ある意味何時も通りだ、僕は毎回こちらの部屋だ。
大神の分家でさえこちらは使わないのだとか、なんだかむず痒い。
勿論先に断ってイアンスには専用の椅子を用意してもらっている。
僕は十六夜と修行の兼ね合いで座禅まで体験している上級者だからね……
――あれは辛かった。
で目の前にいるのが、十六夜のお父さん。
弦月さんは舞踏家でもあるのだけど、武術の達人でもあって、今日は剣術用の胴着のような装いだった。過去には兄さん達をはじめとして父さんとも拳や剣を交えた達人の一人だけあって貫禄がある。
そしてその隣に一輪の大輪といった風に笑顔を浮かべているのが十六夜の母親の望さん、十六夜曰く可憐な姿の……
いや何でもない、兎に角十六夜が成長すればこの様に美しくなるだろうといった気品の漂う女性だ。
着物がとてもよく似合っている、うん、今度十六夜にも一着用意してもらおう。
「話は一応事前に聞いての通りだよ、私達大神としては十六夜とルクス君の結婚に大賛成だ、いやぁ感慨深いものだよ、君の父上や兄や姉と戦ってどれくらい経ったか……」
えっとその色々聞いていますがその節はご迷惑を……
今では笑い話らしいけど、世界を又にかけて暴れすぎだと思うんだ皆。
何気に弦月さんも世界中で伝説を作ってるし……
まあ、何にしてもこうして承諾を得ているだけじゃなくて可愛がってもらえるのは有り難いな。
それは望さんも一緒なんだけどね。
さらに上を行くというかなんというか……
「フフフ、もうね、ほら十六夜のお兄ちゃんは今武者修行だって言って世界を巡っているでしょ、それにあの子ったら武しか興味の無い様な子だからルクスちゃんが息子になってくれるのはもう、大歓迎なの」
「こらこら、もう結婚するという義理の息子に“ちゃん”はいかんぞ」
「だってぇ、ルクスちゃんの事はこーんな小さい時から知ってるのよ、ツンツンした我が家の男性達と違って可愛いのだもの!」
まあ、お分かり頂けただろうか、普通の人レベルだった僕の事を大変可愛がって頂いたのは我が家の家族だけでは無かったのだが、その筆頭とも言える程にこの二人には可愛がってもらっている。
正直言って、恥ずかしいながらも嬉しいし、頭が上がらない。
人並みでもいいから武術を身につけよと弦月さんには世話になったし、望さんには何かと日本の文化について教えてもらったりしている。
「はい、一応事後報告と言う形で申し訳ないのですが、先日の訓練時に――」
まあこの辺りはカーミラさんと同じで詳細は流石に伝わっていないから説明をさせてもらう。
一応は例の元級友が死亡しちゃったりする可能性を減らさないとね……
ホントに、洒落にもならない、更に僕の立場がこうして結婚にともなって上がるから余計に問題になる。
「――と、なりまして重症を負った僕を抱えた十六夜の涙のお陰でこうして今の僕がいます。そして後はご存知の通りの騒ぎとなってしまった事でお互いの気持ちを確かめ合いました。改めて大事なお嬢さんを今後私が頂く事になりますので宜しくお願いします」
「私はルクスと永遠の時を共に歩むと誓いました、これで絆が切れるわけではありませんが、これからはルクスの妻として生きてまいります、お父様、お母様、有難う御座います」
「私も妻の一人として、そして十六夜さんの友人として共に力を合わせます」
僕と十六夜そしてイアンスも妻の一人としての挨拶を済ませた。
うん、これで場の雰囲気も更に少し砕けた感じになった。
でもね、この後に出たアイデアがちょっと面白かったんだ。
「うむ、確かに口上受け取ったよ、後はまあ挙式となろうが、これは大神からドラクルに嫁にいくのだからドラクルの習慣にあわせるといいよ」
これは当然だよと弦月さんも言ってくれたんだけど、結婚式とは何ぞやという話になる。
特に僕と十六夜は文化の違いも大きい。
同じイアンスでさえもそうなんだ、この辺りは後々考えればいいかと思ってたんだけど、今のうちに考えを伝えておこう。
「いえ、あちらには正式な神社もありませんので出来ませんが、結婚式なのです、一応は向こうで執り行いますが、我が家の祖に誓うと言っても、実際は幻想界で生きてますし、一応は順々に巡って誓いをさせて貰えれば嬉しいのですが」
そう、神様というかなんというか、うん、幻想界にいるし、生きてるし、何よりも先祖というかお爺ちゃん的な存在なんだよね。
「そう言えばそうだったね、うむ、まあ我らの崇める神様も幻想界にいるからなあ」
弦月さんも思い当たる節はあるようだ、大神の崇める神様も同じなんだよなぁ……
そうしたら、更にイアンスがポツリと呟いた。
「私の実家など下手をすればドラクル家に誓いをたてますのよ……」
……なんというか、うんまあ始祖よりも上で神祖とか言われている訳で間違いではない。
そもそも僕らが教会で挙げるはずもなし。
いや挙げても問題はないどころか組織を作ったのが父さんだったりするんだよなあ。
そんな風に思い浮かべていたら妙案が浮かんだわと望さんがこういったんだよ。
「ねえ、いっそ幻想界で式を挙げるのはどうなの?」
「それは悪くないな、誓いの相手がその場にいるなどなかなか無いことじゃないか」
それって凄すぎませんか?
あーでも家の両親も間違いなく賛成しそうだなあ。
「ふむ、その辺りは私とアイツとカーミラさんも加えて話し合っておこうじゃないか、流石に幻想界でとなれば我らの出番だな、ハッハッハこれは遣り甲斐があるな、軽く神代時代まで遡らねばこのような大きな式は無いだろう、うむ、十六夜、ルクス君、イアンスちゃん、父さんに任せて置きなさい!」
え、世界でも獲る気ですかその会合……
当の本人が置いてけぼりですが?
「じゃあ早速打ち合わせの件の連絡もしなくちゃ!」
弦月さん、望さん、非常に嬉しいのは判るんですよ、僕も有り難い気持ちで一杯です。
ですが、あの、その前にですね、分家の問題を……
だが、興がのった二人の大人を止めれる人間はこの場にはいなかった。




