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020 兄+自惚れ+偏執=争い

 響き渡る扉の音、そして入ってきた時に見せてた目付き、それだけで十分だった。

 あの目には見覚えがある、彼は敵なのだなと僕には判った。

 幾度と無く向けられた憎悪と蔑みの目。


「失礼します、母上、我が妹の婚約者殿とやらが来られていると聞きまして、急ぎ参った次第」

「ふむ、しかしフリードリッヒ無礼も程々にせよ、誰がこの部屋に入室を許した?」

「これは手厳しいですね、妹の相手を見ねばと急いだというのに」

「さて、そもそもお前は出かける用事があると言っておった筈だな、それはどうした」


 急いで戻るほどの用事か……

 さて、なんだろうな。

 それよりも、これがカーミラ様の当主としての顔か。

 成る程、三卿の一人の威厳は先程までの対応の時とは大きく違う。


「いえ、私の調べた所、婚約者殿はドラクルでも魔力(ウィスクラフ)も有していなかったと聞きましてね、優秀な魔術と魔法で知られる我が家から嫁に出すというのに納得できませんでしたので、兄として情報を確かめに出向いていたのですが、部下からの連絡を聞けば我が家訪れて結婚の了承を得ようとしているとか、流石に私も驚いてこうして帰ってきたのです」


 何処に何の情報を取りにいったのか知らないが……

 服は着替えたようだが、その体から匂うな。

 血と泥、それに魔力の残滓だ。

 それも僕の知ってる魔力のね。


「ほう……妹の為か、それは愛溢れる素晴らしい行為ではないか。その為にドラクル家から使者からの話をお前が判断して返答したのだな、ふむふむ」

「ええ、そうで御座いますとも、全ては愛する妹の為で御座います、お母様なら判って頂けると思っておりました」

「ククク、そういう事らしい婿殿、どうやら我が愚息の仕業のようだな……」

「はい、確かに」

「わ、私が愚息!? 母上と言えど聞き捨てなりませんよ、そもそもそこにいる半端者は――」

「黙れこの愚か者が、彼の魔力さえも見通せぬからお主はは愚かだというのだ、そもそも、我が名を語り勝手にドラクル家との縁談を潰そうなどという思い上がりを許すと思う事自体があり得ぬ」


 しかし、いくら思い上がったからと云っても無謀に過ぎる、となれば更に裏がある?


「クッ、高が魔力を持たなかった半端物が魔力を持ったぐらいで優秀な我が妹を娶るなど!」

「兄上と云えど、我が夫となるルクス様をそれ以上愚弄する事は私が許しませんわ、これ以降続けるというのならば死を与えますわよ」

 あ、これは――

「だが嫁を同時に二人取ろうとするような不実で我がバートリ家を――ツッ」


 ――ジュッ

 オオウ、本気で攻撃されるとは思ってなかったか。

 顔が引きつってるな。


「私は『これ以降は許さない』と告げた心算で申しましたの、お分かりではなかったのかしら? 私が認めているお方との婚姻で、先程お母様からもルクス様が了承を受けた件に“高が長男”という分際で意見するとは偉くなりましたわね」

「認めん、認めんからな! クソッ」


 完全に劣勢と判断したのだろう、彼は捨て台詞を吐いて部屋を飛び出した。


「処分せずに良かったのか、今の婿殿達ならば訳も無く処分できたであろうに」

「いえ、いくらバートリ家長男の方と云えども今回の事不振な点が多いかと、裏を知るためにもここは」

「成る程、確かにあれは多少プライドが高いと云えども馬鹿では無い、ならば更に何かがあると見たか……フフフ、これは楽しい婿殿だ、以後我が娘イアンスを宜しく頼む」


 カーミラ様に頭を下げて頂くまでもなく大事にします!

 でも息子さんの命がやばいです。

 不老不死の吸血鬼と世間で言われていても魂が消滅するとその不死性が失われるし、肉体を滅ぼされた後で魂そのものを封印されちゃったりも……

 というか処分ってよかったんでしょうか。

 するっとスルーしましたけど。


「しかし、裏の事情次第では……」

「構わぬとは云わぬが、致し方無かろう、愚かな息子に育ってしまったのは我が罪だ……ドラクルに敵対するなど何をとち狂ったか……」


 あーまあカーミラ様辺りなら色々あったんだろうなあ。


「我らなど人間から吸血鬼の末席にいるだけに過ぎぬというのに……始祖の一族と云われ育ったためか、あれ程に教えたというに。すまぬな婿殿には残念ながら迷惑をかける事になりそうだ」

「いえ、お気に為さらずに、実際私はつい先日まで人と変わらぬ身でしたのは事実、できれば穏便に済む事を願います」

「そう云ってもらえただけでバートリ家としては十分。できれば此方でと云いたい所ですが……まずはドラクル家の判断を仰いでからで結構です」


 そういってカーミラ様は言葉遣いを変えて再度、僕に頭を下げた、カーミラ様が僕如きに頭を下げる意味は大きい。

 これが倒錯の吸血鬼と言われるこの人の本質なんだろうな、この人は愛を大事にする、おそらく息子の事も助けられないと判ってしまったのだ。


 僕らは部屋を辞して、イアンスの部屋へ移動し当分の着替え等を運ぶ指示をした僕らはドラクルの屋敷に一旦帰るべく屋敷を跡にした。

 因みにイアンスの部屋は凄くお嬢様っぽいけどピンクとホワイトを基調にした乙女な部屋で、ちょっと良い香りがした。

 そう告げたらポカポカと叩かれたけど可愛かったよ。

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