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「う──わあぁぁぁぁぁぁ!?!? 」
我に返ったジョアンは叫んだ。
「コレは違うんですよええ違うんです」
「そうそう、魔力譲渡をしていただ──」
「わぁああぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「……」
不幸中の幸いとして、二点。
あの様を見られてしまったのは最初に駆け付けた者のみ。
そしてその者が、エメリー・ホプキンス第一部隊長(27)だったこと。
彼はニール・ロス騎士団長の右腕であり旧知の仲。ニールのことを最もよく知り、黒狼騎士団で最も冷静沈着な男であった。
ジョアンの動揺から一旦見なかったフリをし、奥でまだ蠢く魔獣についての説明を促し状況を把握。
その後、続々と参戦する騎士団員達により魔獣を解体、部分的な採取が行われた。
その様子は拍子抜けするほど、本当に『解体と採取』──どうやら研究はまだ不完全だったらしく、ニールが身体の中央を斬り裂いた時点が、あの魔獣が一体の魔獣として存在したピークだったようだ。
エメリーの配慮のお陰で徐々に冷静になったジョアンだが、もうあの場でやれることはなく。経緯の聴き取りのために、学園内に本件の仮本部として作られた一室へ連れて行かれた。
ニールはニールで、騎士団長として色々やることがあったので別行動。
ただの一教諭に過ぎないジョアンには経過は伝えられないまま、拘束を余儀なくされた。
なんだかんだ結界の強化や補修の手伝いはやらされ……ようやく帰宅許可が出たのは翌日の夕方。
珍しく労われた上『明日は休んでいい』と言われたが、流石に飲みに行く体力は残っておらず。
ジョアンは自宅のアパルトマンの一室に入るなり、一番近いリビングのソファに倒れ込むように寝た。
そしてあっという間に一日が過ぎ。
その次の朝。
腹立たしいほど好調な身体で学園に出勤したジョアンを待っていたのは──
「シールズ先生、ちょっと」
大変既視感に溢れる光景であった。
それはウッカリ『アレ? 私、数日前をまた繰り返してる……?!』とループものの小説のヒロインのような科白を言いたくなるほど。
しかし、残念ながら現実。
絶好調の身体ではあれど、出勤時から既にいつもより重かった足取りを更に重くし、ジョアンは副学園長と共に学園長室へと向かう。
「やあ」
「……どうも」
そこで待っていたのは、案の定、黒狼騎士団長ニール・ロスであった。
学園長曰く──
「被害が最小限で済んだのは、ひとえに君の機転によるものだ、と。 それで是非、その技術や知識を黒騎士団の方に授けて欲しい、 というお話で……」
──とのこと。
ただ今回は、前回のように簡単には終わらず、もう少し詰めた説明が行われた。
それを単語一語で言うと、『辞令』である。
王立学園教員も王立騎士団員も、国家公務員。それぞれが独自の体系を持つ組織ではあるが、学園と騎士団には繋がりもあるので、ある程度の融通は利く。
今回、ジョアンは実際に活躍してしまったのもあって騎士団からの要請が通り『王立学園の魔法学教諭として、黒狼騎士団に異動』となってしまったのだ。
ジョアンは非常に不本意ながらも、それを受けないワケにはいかなかった。
『辞令』なのだから、そりゃそう。のっぴきならない理由でもない限り、断れない。
変わらないのはニールの大変いい笑顔。
「本当に彼女の働きは素晴らしかったです。 予期せぬ事象続きでしたから」
最も評価されたのは、機転を利かせて伝達を手紙で行い現場に残り、補助としても活躍したこと。
あの時──資料保管室でのジョアンは、咄嗟に最優先事項である指令を紙に記して紙飛行機にし、小窓からそれを魔法で飛ばして本部まで届けたのだ。
「そうですか! いやぁシールズ先生、これは栄転ですよ!」
副学園長はご機嫌である。
学園長はなにか感じるものがあるのか、少し心配そうにジョアンを眺めつつも、黙っていた。
「では、シールズ先生」
「はい……失礼します」
ニールはまだ手続きがあるらしく学園長室のソファに座ったまま、ニコリと笑って会釈をする。
学園長はわざわざ扉のところまで送ってくれた。「新天地でも頑張って」とジョアンの肩を叩いた後で、彼が小声で「今回の件で賞与が出ます」と教えてくれたことがなによりの慰め。
(……なんなの……なんなの?!)
惰性のように動きつつも、暫く呆然としていたジョアンだが、段々頭にきていた。
しかし、とりあえずやらねばならないことはある。引き継ぎ……は急なことなので学園側がなんとかしてくれるにしても(※やりたくないので投げた)、置いてある私物の回収とか。
しがない一教諭であるジョアンに個室は与えられていないため、プンプンしながら職員室に戻る。
「ジョアン先生の嘘吐きィィィィィィ!!」
「ひっ!?」
「『私なんにも知らないんですぅ~』とか吐かしながらまんまとイケメンエリートを誑し込んでるじゃないですか! ああっジョアン先生だけは大丈夫と信じてたのに! これだからイイとこの深窓令嬢など信用ならぬ……!!」
「ええぇぇ……」
戻るなり、歳下同僚の女の子に怒りをぶつけられ、ジョアンの怒りは飛んだ。
『なんで自分だけは大丈夫だと思われてたのか』とか『イイとこの深窓令嬢と思われてたのか』とか『今までになにがあった』とか色々ツッコミどころは多いが、自分より激しく怒っている人がいると、なんか怒りが持続しないあるある。
なんだかんだと文句を言い、片付けの邪魔をしながらも彼女はジョアンとの別れを惜しんでくれているらしく、餞別に『気に入って買った』と自慢しながらもまだ下ろしていないガラスペンをくれた。
渋好みでゴツい万年筆を使用しているジョアンには些か可愛すぎるが、有難く受け取った。
最後には泣きながらもちゃっかり「今度、将来有望で素敵な騎士男性を紹介してくだたい……」と言われたけれど。
荷物を纏め、一通り挨拶も終えた。
あとは帰るだけ──
学園を去るとはいえ、急な辞令。
しかも所属は王立学園教諭のままで、王都内の然程離れてもいない職場に異動のジョアンに、特別な見送りはない。そもそも授業中のため、職員室にももう教員は少ない。
ジョアン自身も特に感慨どころかあまり実感もないが、数日の有給は貰えた。準備期間とも言う。
(飲みに行くか。 でもまた鉢合ったら嫌だな……ああっそもそもどんな顔して会えば……!)
そんなことを考えながらも顔には出さず、残る教員達に向けて軽く挨拶をして職員室も出た。
その矢先──
「お疲れ様、ジョアン」
「!」
ジョアンは驚いた。
彼女に声を掛けたのが、あまりにも想定していなかった人物だったから。
ご高覧ありがとうございます!
誤字報告も感謝です~!
ただ歳下同僚女性の『くだたい』はわざとなので、誤字報告は要らないです。
送ってしまう気持ちもわかる……最初から注釈入れとけば良かったですね、すみません('ω' ;)




