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酒は飲んでも呑まれるな~騎士団長はポンコツ女教諭を手に入れたい~  作者: 砂臥 環


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5/9


「ロス騎士団ちょ──」


ぶわっ

ギィィィィィィィンッ!!


「──ぁぐッ?!」


剣気を纏わせ放出したニールの一撃。

その余波に廊下の逆隅へと吹っ飛ばされたジョアンは、扉に背中を打ち付け小さく喘いだ。

だが扉にぶつかった衝撃やその音よりも、魔獣に向けられたニールの剣から発せられた(つんざ)くような金属音(・・・)に耳が痺れている……一体なにと戦っているのか、というのが正直な気持ちだ。


(あんな化け物を一人で?!)


声にならないまま呟く。『どうかしてる』。


(せめて強化(バフ)を──)


「ひっ」


体勢が整わないまま踏み出しそうとしたジョアンに鼠型魔獣が襲いかかる。


「っあぁああ!!」


バンッ!

咄嗟に扉を叩きつけるように開いて防いだものの、魔獣は「ギャッ」とひとつ悲鳴をあげただけ。勢いのまま滑り込むよう部屋の中に入り、扉を閉めた。

……カツン。

その拍子に貰った酒の小瓶が落ちて床に当たり、小さく音を立てる。


『最優先事項だ』とニールは言った。

『頼んだ』とも。


扉の向こうからは激しい戦闘音。

よりによって入った部屋は資料保管室らしく、窓は明かり取り兼換気用の小窓のみ。到底、人が通れる大きさではない。


まるで全身が心臓で。

悪酔いしているみたいだった。

ぐるぐる回る『どうする』『どうしたら』という言葉と共に、ばくばくと嫌な音を立てる。世界が揺れている。


それはほんの数秒の長い時間。

何度目かの『どうしたら』の自問──上手く動かず縺れた足でよろけたジョアンは、資料貸し出し記録用の小さな机に手をついた。


「──」


見るでもなく眺める、バサバサと音を立てて落ちる紙。


「──………………! っぁ」


ジョアンはあることに気付き、小さく声を漏らす。


『ジョアン・シールズ、素面でも(・・・・)君ならできる』


ニールの言葉が過ぎり、ジョアンは舌打ちして内心で毒吐く。

滅茶苦茶偏見だが──


イケメンにロクなヤツぁいない。

お偉いイケメンなら、尚のことだ。



★★★



(……これはなかなか大変そうだ)


戦いは始まったばかりだが、ニールは早々に苦戦の予感を抱き、ひっそりと息を吐く。


キメラ魔獣は造形だけを見れば熊が一番近い。ただ身体には複数の頭部が無造作につけられていた。

そのうちのひとつに、ニールは見覚えがあった。おそらく寄贈された検体や剥製などを取り込んでいる。


時折延びる腕のようなモノと、いきなり出てくる大きな口。

どうやら本当に主となっているのはスライムのようで、ありとあらゆる物を飲み込んでは肉体の一部としているらしい。

見た印象としては動かす意味での肉体であり、また飾りであり武器。そして比喩としての肉体の一部……本体の餌でもあるようだった。


……ボトッボトボトボトッ

ビチャ、ビチャッ


鼠型魔獣の死骸や、なんの物かもわからぬ肉片を落としては拾い、取り込む姿はグロテスクそのもの。


ワケのわからない気色の悪い相手だが、それは見た目だけ。

肉体とする素材(・・)を動かしているだけにその動きは緩慢で、俊敏なのは、触手のように伸びる本体のみ──

その強さ(・・)故、栄えある王国騎士団のひとつである黒狼騎士団長に選ばれたニール・ロスにとって、純粋に力の点だけで言えば本来苦戦するほどの相手ではない。


だが今は、条件が悪い。

研究棟を封じている結界はこういった危険な事態を想定し、建設時に組み込まれた物なのだ。

鼠型魔獣の殲滅が終わっていない以上、建物の倒壊は勿論、一部破損により穴が生じるのも避けねばならない。


魔獣や魔法での攻撃はエネルギーの大部分が魔素であるため、結界等を含めた防御魔法で物理的干渉をかなり緩和できるのだが、ニールの場合、自身の特殊能力(ギフト)である《剣気》による力が大きい。


《剣気》とは、剣を介し気を物理的な力(・・・・・)として増幅、放出させるもの──研究棟外壁は強固に造られているが、自身の攻撃によって壊しかねない。

故に、この条件でその真価は発揮できずにいた。


(最初の一撃で倒せれば良かったのだが)


ジョアンになんか死亡フラグみたいな科白を宣っていた彼だが、余程の不運に見舞われでもしない限り、死ぬことはまずない。


ただ、一人で倒すのも難しい。

魔法補助が必要なので、救援待ちだ。

問題は──


(それまで建物がもつか……)


面倒なことに相手は学習しており、色々と試している素振りが窺える。

本当は時間をかけたくはない。


僅かな間、数回の激しい攻防の末、互いに様子見のような状況に陥っていた。


「──おっと」

「ギャッ!」


こちらから仕掛けなければあまり攻撃をしてこない代わりに、また鼠型魔獣が矢鱈と出てきている。そうかと思うと、隙を突いたように触手のように動く硬化させた本体の鋭い攻撃。

明らかに、なにか狙いがある。


「……っ!?」


始末した鼠型魔獣の死骸がいくつか消えていることに気付き、ニールは狙いを理解した。


本体の()──


(コレはマズい……!)


奴はおそらく、結界を打ち破るだけの魔力量、或いは質量を備えようとしているのだ。


(香がここにきて仇になったか!)


「ちぃッ!」


ニールは舌打ちし、炎魔法で鼠型魔獣の死骸を焼き消す。

それは厄介な作業だった。

彼は魔法も使えるものの、繊細な魔力操作は得意ではないのだ。


物理的干渉をかなり緩和できるのは、結界の作用している外壁や内壁の一部のみ。当然備品などには干渉する。

要は『任意の物以外も燃える』のである。


(ジョアンと共に戦い、倒してから下がるべきだった……!)


駆け付けた者達の中に、魔力操作の上手い者がいるとは限らない。元々不本意だったジョアンが再び来るとも思えなかった。

それでも救援を待つよりない。


矢継ぎ早に軽い攻撃を繰り返し本体の意識を逸らしつつ、向かってくる鼠型魔獣を倒しては消しながら、無意識でチラリと後ろを見た──


「……ッ?!」


その時だった。

バンッと大きな音を立て扉が開いたのは。

どこにも特に続いていない、資料保管室の扉が。


ご高覧ありがとうございます!


【訂正箇所】2026/07/09

触手→✕

いや触手ではないよな、と後で気付いた件。

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― 新着の感想 ―
うおおお、いっけえええ!!!!
これだけのシーンを書くのは凄い。 すごく大変なのでは。 さぁいよいよ救援なるか?
あれ、酒の小瓶使わない感じ?笑 資料保管室? なになに、どーなる!? 続き気になるやーん!
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