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2:転生

 私は天井を見上げたまま、しばらく無言で思考を巡らせた。


 まず、状況整理。


 ①私は日本でアイドルをしていた。

 ②事故っぽい何かで多分死んだ。

 ③気が付いたら見知らぬ場所。

 ④王様が私の事を『リア』と呼んだ。

 ⑤周りの人たちは私を王女扱い。


 ……はい、どう考えても。


「転生じゃん……」


 ぽつりと呟く。


 いや、ラノベかよ!?


 ……と思わず心の中でツッコミを入れてしまった。


 だって、まさか自分がやる側になるとは思わないじゃん?


 私は両手で顔を覆いながら、小さく唸った。


「いやいやいや……落ち着こう、私」


 ここで大事なのはパニックにならないことだ。


 転生系の作品でよくあるパターンを思い出す。


 まず――


「記憶がないフリ、するべき?」


 王女としての記憶はゼロ。


 もちろん、マナーも知らない。


 家族関係も知らない。


 国の名前も知らない。


 下手なことを言ったら一瞬でバレる。


 でもさっき王様が言ってた。


 私は七日間、意識がなかった。


 つまり――


「記憶が曖昧でも不自然じゃない……?」


 これ、ワンチャンあるのでは?


 記憶が混乱している設定で、少しずつ情報を集める。


 うん、それが一番安全そう。


 ……いや待って。


 そもそもこの世界って何?


 魔法とかあるの?


 ドラゴンとか出てきたりするの?


 それとも普通の中世っぽい世界?


 もし魔法とかあったら――


「え、私も使えたりするの……?」


 ちょっとテンション上がってきた。


 だって魔法だよ?


 ファンタジーだよ?


 アイドルから王女ってだけでもすごいのに、さらに魔法まで使えたら――


 ……いやいやいや、まずは状況確認でしょ私!


 小声で自分にまたツッコミを入れる。


 そのとき――


 コンコン。


 扉を叩く控えめな音が響いた。


「お嬢様、失礼いたします」


 聞き覚えのある落ち着いた声。


 ゆっくりと扉が開き――


 先ほど私の手を握っていた、あの美人メイドが部屋へ入ってきた。


 両手に銀のトレイを持ち、静かな足取りでこちらへ歩いてくる。


 その姿を見て、私は思わず目を奪われた。

 

 黒く艶やかな長髪は腰のあたりまで流れ、窓から差し込む光を受けるたびに絹糸のような輝きを放っている。


 整った顔立ちはまるで芸術品だった。


 すっと通った鼻筋に、形の良い唇。


 優しく細められた瞳はどこか包み込むような温かさを宿していて、見つめられるだけで不思議と安心感を覚えてしまう。


 背は高めで姿勢も美しい。


 無駄のない所作の一つひとつに長年仕えてきた優秀なメイドらしい品格が滲み出ていた。


 そして何より目を引くのは、その女性らしい豊かな体つきだった。


 上品なメイド服の上からでも分かるほどの存在感がありながら、不思議といやらしさはない。


 むしろ母親のような包容力を感じさせる柔らかな雰囲気を作り出している。


 黒を基調としたメイド服は彼女によく似合っていた。


 白いエプロンとのコントラストが鮮やかで、まるで物語に登場する理想のメイドをそのまま現実に連れてきたような完成された美しさがある。


 近くで見れば見るほど分かる。


 このメイドさんはただの美人ではない。


 思わず見惚れてしまうほどの、圧倒的な美しさを持った女性だ。


 芸能界でも普通に通用するレベル。


 いや、むしろトップクラスかもしれない。


 ――そんなことを考えているうちに、彼女は私のベッドの傍までやって来ていた。


「お身体の具合はいかがでしょうか、お嬢様」


 優しく、それでいてどこか安心させる声。


 私は一瞬だけ言葉に詰まり、さっき決めた作戦を思い出す。


『記憶が曖昧なフリ作戦』


 よし、いくぞ。


 私は少し困ったように眉を下げて言った。


「えっと……あの……」


 メイドさんが心配そうに顔を覗き込む。


「どうされました? お嬢様?」


 私は少し間を置いて、慎重に口を開いた。


「……ごめんなさい。私……その……」


 そして、恐る恐る言った。


「色々、思い出せないみたいで……。どうやら、私、記憶喪失になってるみたいなの……」


 その台詞を聞いたメイドさんの目が、ゆっくりと大きく見開かれるのがわかった。

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