1-11:魔法
「ではまず、この世界に存在する魔法の基本からご説明いたしますね」
ミゾレはそう言うと、静かに指を鳴らした。
次の瞬間――
空中に一枚の半透明な板が現れる。
「うわっ!?」
私は思わず立ち上がりかけた。
それはガラスのようにも見えたが、どこか違う。
薄く青白い光を放ちながら宙に浮いている。
まるで巨大な液晶モニターだった。
「こちらは魔法映像でございます」
「魔法映像!?」
なにそれすごい!
完全にファンタジーなのに、やってることはハイテクだ!
「説明の際によく使用される補助魔法です」
「便利すぎない!?」
私が興奮している間にも、光の板には映像が映し出されていた。
七つの光る球体。
赤、青、緑、茶、白、黒、透明。
それぞれがゆっくりと回転している。
「この時代の魔法は七属性によって成り立っております」
映像の球体が一つずつ拡大される。
『火』『水』『風』『土』『光』『闇』『無』
属性名が表示されるたびに対応した映像が流れ始めた。
火属性では巨大な炎が敵を焼き払う映像。
水属性では半透明の水壁が攻撃を防ぐ映像。
風属性では兵士たちの動きが一気に加速する映像。
土属性では騎士の身体が光り、巨大な岩を持ち上げる映像。
「おおおお……!」
すごい……普通に映画みたいなんだけど!?
「火属性は主に攻撃系でございます」
映像の中で、魔法使いが手をかざす。
次の瞬間――巨大な炎の槍が生み出され、凄まじい勢いで標的へと突き刺さった。
「高い破壊力を誇り、魔物討伐や戦闘で最も多く用いられる属性です」
「おお……強そう」
「水属性は主に防御系でございます」
今度は透明な水が渦を巻き、術者の前に巨大な壁となって展開された。
炎がぶつかっても揺らぐことなく受け止める。
「防御魔法との相性が良く、味方を守ることに優れた属性でございます」
「守護者っぽい感じだね」
「その認識で概ね問題ございません」
ミゾレは微笑みながら続けた。
「風属性は主に支援系でございます」
映像の中では、兵士たちの身体に淡い風がまとわりつく。
すると、兵士たちは一瞬で駆け出し、常人では追えない速度で戦場を駆け抜けた。
「身体能力の補助や移動速度の向上、索敵などに優れております。戦場においては非常に重宝される属性です」
「縁の下の力持ちって感じだ」
「まさしくその通りでございます」
そして最後に、ミゾレが指先を動かした。
「土属性は主に強化系でございます」
映像の兵士の身体が土色の光に包まれる。
次の瞬間、兵士は巨大な岩を軽々と持ち上げてみせた。
さらに魔物の攻撃を受けても、ほとんど怯む様子がない。
「筋力や耐久力を大幅に向上させることができるため、前衛職との相性が非常に良い属性でございます」
「なるほど。火は攻撃、水は防御、風は支援、土は強化ってことか」
「はい。これが現在、最も一般的とされている四大属性でございます」
映像付きなのでめちゃくちゃ分かりやすい。
「そしてこちらが光属性でございます」
画面が切り替わる。
柔らかな光に包まれた女性が、傷ついた兵士へそっと手をかざした。
すると――
裂けていた傷口がみるみる塞がり、失われていた体力まで戻ったかのように兵士が立ち上がる。
「すごい……!」
「光属性魔法は回復系魔法の代表でございます」
ミゾレが説明を続ける。
「傷の治療はもちろん、病や呪いの治療、疲労の回復なども可能でございます」
「万能じゃない?」
「そうですね。高度な術ほど扱える者は限られますが、非常に貴重な力であることは間違いございません」
すると映像が再び切り替わった。
今度は光の粒子が術者の周囲に集まり、巨大な光の槍を形成する。
槍は一直線に飛翔し、遠くの魔物を貫いた。
「えっ、攻撃もできるの!?」
「はい。光属性には光そのものを武器として扱う攻撃魔法も存在いたします」
さらに映像の中では、術者が両手を掲げる。
すると神々しい光が空から降り注ぎ、周囲の味方を包み込んだ。
兵士たちの傷が癒え、身体能力までも向上していく。
「また、光属性魔法の中でも特に高位の術は『神聖魔法』と呼ばれます」
「神聖魔法……!」
「強力な回復や浄化、味方への加護付与などを可能とする特別な魔法でございます」
映像の神々しい光景に、私は思わず目を輝かせた。
「なんか主人公っぽい!」
「実際、光属性魔法は、古くから『神に最も近い属性』とも呼ばれております」
ミゾレは小さく微笑む。
「そのため光属性の適性を持つ者は、各国において非常に大切に扱われているのでございます」
そして、続いて映し出されたのは闇属性だった。
黒い影が床を這うように広がり、その中から小さな獣が姿を現す。
影の獣は主の周囲を元気よく駆け回り、まるで忠実なペットのように寄り添っていた。
「闇属性は特殊系の魔法でございます」
「あっ……! 使い魔だ!」
「そうですね。この映像に映っている影の獣は使い魔の一種です」
そう言い終えると同時に映像が切り替わる。
今度は黒い霧が敵を包み込んだ。
敵兵は突然足を止め、怯えたように辺りを見回し始める。
「また、闇属性には精神へ干渉する魔法も存在いたします」
「精神?」
「恐怖を与える精神攻撃や、幻を見せて惑わせる幻惑魔法などでございます」
「おお……なんか一気に怖くなってきた」
「実際、非常に特殊で強力な属性でございますので」
ミゾレの表情が少しだけ真面目になる。
「ですが、闇属性は強力である反面、取り扱いには細心の注意が必要とされております」
映像の中で、黒い魔力を纏った術者が苦しそうに頭を押さえた。
「闇属性の魔力は術者自身の精神にも影響を及ぼすことがあります」
「えっ」
「未熟な術者が無理に扱えば、負の感情に呑まれたり、精神を蝕まれたりする危険性がございます」
映像の術者を覆う黒い魔力が徐々に暴走していく。
「最悪の場合、自我を失い、魔力の暴走を引き起こす事例も記録されております」
「思ったより危険だな……」
「そのため、闇属性の適性を持つ者は幼少期から専門の教育を受けるのが一般的でございます」
ミゾレは静かにそう告げるとともに、私の頭の中に一つの疑問が浮かび上がった。
「ん……? 使い魔が使えるって事は、ひょっとしてミゾレは……」
「お嬢様が考えている通りでございます。私も同じ系統の魔法を扱います」
「えっ、本当に!?」
私は思わずミゾレを見た。
使い魔を召喚できる闇属性魔法。
精神攻撃や幻惑まで扱える特殊な属性。
そんな珍しくて難しそうな魔法を、この美人メイドは使えるらしい。
改めて考えると凄すぎる。
「ミゾレって、もしかしてかなり優秀だったりする?」
「もしかしなくても優秀でございます」
「自分で言った!?」
けれど、不思議と嫌味には聞こえなかった。
実際、そのくらい言っても許されるほど有能なのだろう。
「では最後に無属性でございます」
画面が切り替わる。
術者の手から光弾が放たれ、続いて半透明の結界が周囲を包み込んだ。
「無属性は基礎魔法系でございます」
「なんというか……他のに比べたら少し地味な感じだね」
「そのように思われがちですが、決して侮れません」
ミゾレは小さく首を振る。
「属性の影響を受けにくく汎用性が高いため、攻撃、防御、補助のいずれにも応用が可能でございます」
「なるほど。万能タイプなんだ」
「はい。派手さはありませんが、魔法の基本を支える重要な属性でございます」
私は完全に夢中になっていた。
異世界に来てからずっと聞きたかった内容だ。
そんな私を見ながら、ミゾレは説明を続ける。
「あと、人は生まれながらにして『先天属性』を持っております」
映像の中で赤い球体が強く輝く。
「例えば火属性の適性を持つ者は、火属性魔法が最も得意になります」
「生まれつき決まってるんだ」
「はい」
映像の中では一人の魔導士が複数の属性魔法を使っている。
「もっとも、訓練によって複数属性を扱うことも可能です」
「おぉ!」
やっぱりそうなんだ。
「ただし先天属性の影響は大きいため、得意不得意は必ず存在します」
なるほど。
何でも使えるけど専門分野はあるわけか。
「しかし光属性と闇属性だけは例外です」
映像の中で白い光と黒い光が向かい合う。
そして触れ合った瞬間、互いを拒絶するように弾けた。
「光属性の者は闇属性を扱えず、闇属性の者は光属性を扱えません」
「へぇ……」
「また、この二属性は非常に希少です」
画面には人口分布のような図が映る。
光と闇だけ極端に少ない。
「本当に、とても珍しいんだ」
「はい」
ミゾレは頷いた。
「そして、ルミナリア王家は代々光属性魔法の使い手でございます」
映像に歴代の王族らしき人物たちが映し出される。
皆、眩い光を纏っていた。
「おぉ……」
めちゃくちゃ王家っぽい。
神聖な雰囲気がすごい。
そこで私は、あることに気付いた。
「ん? 待って」
「はい?」
「じゃあ……私も『光属性』なの?」
思わず身を乗り出す。
だって気になる。
めちゃくちゃ気になる。
異世界に来て最重要事項まである。
ミゾレは少しだけ微笑んだ。
「はい。仰る通りでございます」
「おぉ……!」
光属性キタ―――――!!
キラキラしてて綺麗だし、人も助けられる、もう完全に主人公の能力じゃん!
「じゃあ私も回復魔法とか使えるのかな!?」
「本来であれば使えるはずでございます」
「本来?」
「……本来、でございます」
その台詞を述べた瞬間、ミゾレの表情が少しだけ曇った――




