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第8話 真相

「君は人を斬ったことがないだろう?」


沖田の言った一言が樹之助にはずっと引っかかっていた。


(あれはどういうつもりで言ったんだろう?)


あの言葉の意味を確かめたいという思いが日に日に募った。


樹之助は意を決し、もう一度沖田に会いに行くことを決めた。


この頃の浪士組はまだ隊士も少なく活動範囲も広くない。


忍びである樹之助が浪士組の巡察隊を見つけるのは造作ないことだった。


ほどなく先斗町(ぽんとちょう)を歩く浪士組を見つけた樹之助は、目を凝らして一行を見つめる。


(沖田はいるかな…?)


思う間もなく、集団の先頭を歩く沖田の姿を見つける。


どこかで話せる隙があるといいんだけど。


そう思いながら遠巻きに一行を見つめながら後に続いたが、期待とは裏腹に一行は止まらない。


(今日は無理か…)


そう思い、樹之助が引き返そうかと思った時、 「屯所に帰る前に茶でも飲んで行こうか?」 と沖田自ら発し、壬生村手前の茶屋に足を止めた。


好機と思い、樹之助は茶屋に近づく。


中を窺おうとした時、不意に沖田が出てきた。


「あれ、ゴエモンじゃない?また来たの?」


沖田がいつも通りの微笑みをたたえている。


「茶…飲んで行かないのか?」


樹之助が聞くと、


「天気がいいから外でいただこうと思ってね。他の隊士は風流を解していないのさ。」


そう言って店先の床几台(しょうぎだい)に腰掛けると運ばれてきた茶に口をつけ、


「あ、お汁粉も頼むよ。ゴエモンもいる?」 と聞いてくる。


「あ、俺は…」

いいと答えようと思ったが、店の床几台に座って何も頼まないのは悪いと思い直し、 「じゃあ、俺もお汁粉で…」

と答えた。


沖田は(それでいい)と言いたげに笑顔で頷いていた。


「それで、今日は何の目的で来たんだい?」


樹之助は、聞くべきか逡巡(しゅんじゅん)したが、意を決して口を開いた。


「あの時、あんたは俺が人を斬ったこと無いって言ってたけど、どうしてそう思ったのか聞きたくて。」


「ああ、そのことか。」


沖田はちょっと拍子抜けといった態度をみせながらも言を繋ぐ。


「そりゃ君の目がまだ澄んでいるからさ。人を斬ると、その人の目は暗く濁ってくる。どんなに内面が善人でも、そうなっていくんだ」


「でも俺は…」


樹之助は、三宅邸襲撃の件を話すべきか迷っていると、沖田は更に確信的な事を言った。


「ゴエモンさぁ、この前の三条大橋前の斬り合いの時、全員殺せたのに殺さなかったよね。」


ギクッとした。


「それは、あの人を逃がせればそれで良かったから…」


「違うね。」


沖田は即座に否定した。


「戦いの玄人(くろうと)は敵がこっちの命を狙ってきてる時、相手に加減なんかしない。敵が息を吹き返してきたらこちらがやられかねないからね。まして一対多の戦いなら、確実に仕留めていかないと、最後は囲まれてやられる。」


沖田の目が深く沈んだ色をたたえている。


「君が倒した最初の奴は、後ろから棒手裏剣を突き刺していたね。特に心臓を狙わなければまず死なない。」


樹之助はゴクリとツバを飲む。


「そして二人目。相手の足にサイを突き刺して動きを止めたね。殺さなくても動けなければいいという考えからだろうね。」


「三人目はサイで敵のこめかみを殴打して気を失わせてる。刺してトドメをさせるのにね。」


沖田が一呼吸置く。


「つまり君はいずれも殺せる敵を殺さず生かした。何故か?殺さないんじゃない。」


沖田の目が、斬り合いの時の暗く沈んだ目になった。


「殺せないんだ。」


沖田に核心を突かれ樹之助の鼓動は速くなる。


「だけど…俺は三宅の一味を!」


沖田の目が細く鋭く光る。


「へ〜、あれキミだったの?でも変だね…」


「何が!?」


「あれは僕らが京に来る前の事件だから伝え聞いたことしかわからないけど…」


そう言って沖田は一度茶をすすり、また続けた。


「あれは三宅という豪商と六人の不逞浪士(ふていろうし)が殺されているんだ。しかも、邸内の女や使用人は殺されるどころか賊の姿も、物音一つ聞いていないと言うんだよ。変だと思わない?」


沖田の目が樹之助を射抜く。


「剣の腕が並以下でも、刀を持った男六人を制圧するのに、家人にもバレず、物音一つ立てずやりきるなんて、俺でも無理だね。一撃で斬り伏せても、倒れる物音や悲鳴なんかを立てずに殺しきることなんて不可能だよ。」


樹之助もそう言われると疑念が湧いてくる。 だが、その先はどんなに考えても思い出せない。


「君がやったと言うならどうやったか教えてくれないか?忍びの秘術でも使ったのかい?」


「お、覚えていないんだ…」


「覚えてない?」


それから樹之助は毎夜のように見る夢の事を話した。


夢でも現実の記憶でも、戦う直前で記憶が途絶えていることも。


「俺は、自分がしでかした事の重大さに自ら心に鍵をかけてしまったんだと思っていた…」


そこまで沖田はじっと腕組みして聞いていたが、ふっと口元に笑みを浮かべた。


「何がおかしい?」


樹之助が気色ばむと、沖田はまあまあと手で制しながら言葉を発した。


「俺にはわかったよ。君は守られたんだ。本当に闇に堕ちないようにね。でも、頭の中には君がやったと言う記憶を植え付けている。」


「誰が!何のために?」


「誰が、はキミが一番わかっているんじゃないかな?何のためには勿論キミのためさ。」


樹之助はもう混乱していた。


「殺させなかったのは本当にキミが闇に堕ちないように。でも殺したと言う罪の意識だけ持たせたのは、自暴自棄になって殺人鬼にならないようにだ。だから君は殺せない。心がキミの行動に制限をかけるんだ。」


「沖田さん、そろそろ…」


店の中から隊士が出てきて沖田に出発を促す。 沖田は立ち上がり刀を腰に差しながら最後に言った。


「これを仕掛けたのは凄く頭がよく、練達(れんたつ)の者だろう。正に講談の中の忍びみたいだ。」


樹之助はその一言にハッとし、顔を上げた。


「その顔はもうわかっているみたいだね。」


沖田は最後に冷めた茶を一気に流し込んだ。


「また会おう、ゴエモン。」


沖田は去った。


樹之助は、これまで夢の中で霧に包まれていた影の姿がハッキリ形になって見えてきた。


「親父…か」


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