↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/83

第36話 仲間

明け六つの鐘が鳴る前、男が夢屋から出てきた。


樹之助は夢屋向かいにある居酒屋の路地から見張っている。


同時に二階の部屋の雨戸が開き、葉牡丹が樹之助に手を振った。


(あれが重吉か...)


見た感じは五十を超えている。

この時代では老人と言えるが、意外と足取りはしっかりしている。


着ている物の感じからして町人風だ。


顔は常に微笑を絶やさない、穏やかな人物像が窺い知れる。


樹之助は尾行した。


(夜は夢屋で明かすが、日中はどこに…)


まずはそれを知りたかった。


重吉はしばらくフラフラと三条通りを行ったり来たりしている。


そのうちどこぞの家中の武士風の男にぶつかった。


男は激高している。


重吉は道路に額を擦り付け謝っている。


やがて何かの捨て台詞(セリフ)を吐き、武士は立ち去って行った。


重吉は立ち上がると、すぐ横の細い路地に入った。


そっと後をつける。


樹之助も路地に入ろうとした時、重吉が出てきた。


樹之助は何食わぬ顔で重吉をやり過ごし、路地に入った。


狭く奥が行き止まりの路地だった。


(あいつここで何を...)


ふと横に積み上げられている木箱の上に何かがあるのを見つけた。


木箱に飛び乗り一番上の箱の上を見る。


そこには空の財布が置かれていた。


(あいつ…さっきの武士からスったな...)


恐らく中身を抜いて、財布は木箱の上に放り投げたのだろう。


(あいつ…スリか)


再び表通りに出た樹之助だが、重吉の姿はもう見えない。


(まぁいい。どうせ今夜も夢屋に行くんだろう。続きはまた明日だ。)


そう思い、樹之助は自分の長屋に戻った。



初めての仕事で夜明かししたせいか、樹之助は昼過ぎまでぐっすり寝入っていた。


すると入口をガラリと明け、またあの大声が入ってきた。


「やいこらお前!新しい裏影だって?」


昨日の用心棒三人衆だ。


(あ、催眠効果きれたかな...)


樹之助は内心少し不安になっていた。


だが、先頭の大男がどかりと座ると、意外な言葉を口にした。


「おめぇ、樹三郎兄(あに)いの息子なんだって?」


親父を知ってる?

一瞬戸惑いの色を見せる樹之助だが、

「お、おう」

と相槌を打った。


「なんでそれを早く言わねぇんだ!それならあんな挨拶料なんて取らなかったのによ~」


(お、あれを銀貨だと思わせた刷り込みは切れていないみたいだな...)


樹之助は別の事を考えてほくそ笑んだ。


「俺たちはな、お前の親父に散々世話になったんだよ。俺達でも困る案件も、樹三郎兄いは簡単に解決してくるんだ。」と大男。


「そうそう。いつの間にか出かけて行って、『全て解決した』って帰ってくるのがたまらなくカッコえかった。」と口の軽そうな太鼓持ち風な男。


「あの何者も恐れず冷静に解決する姿…男でも惚れる。」と小柄で余計なことは喋らなそうな酒樽のような男。


「だから俺たち、子分にしてくれって何度もお願いしたんだけどよ、兄いは『俺はそんなもん従える身分じゃない』って断られてばかりだった。なら、もう勝手に兄貴にしちまえってなって、樹三郎兄いって呼んでんだ。」


(親父…こんな奴らまで心酔させてるって凄いな...)


「てなわけで、兄いの息子なら俺たちゃ無条件で仲間だ。これから兄いの仕事引き継ぐなら何でも手伝うから、遠慮なく言えよ。」


大男が胸を叩いた。


(こんな連中でも、この世界のこと色々しっているだろうから、味方にしておいて損はないな...)


「俺は鬼松って呼ばれてる。」大男が名乗った。


「俺は与太八って呼ばれてる。この界隈の情報は何でも知ってるぜ。」太鼓持ち風な男が続く。


「岩蔵だ...」ムスッとした無口そうな男だ。


「俺は樹之助だ。まだ駆け出しだが、よろしく頼む。」


「そうと決まれば酒だな。」

鬼松が大声で言う。


「い、いや、それは...」


樹之助が慌てて止めようとするが、


「いいから任せろ!俺の驕(おご)りだ!!」


といって樹之助を制すると、懐から財布を取り出し、後ろの二人に投げた。


「与太、岩蔵酒買ってこい!」


「へい!」


二人は足早に出て行った。


(反目し合うよりはいいけど、これはこれでこれから大変そうだ...)


樹之助は目の前で笑う男を、ひきつった笑いで見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。