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渇望の再起動、あるいは聖女の剥離

「……痛い、佐藤くん……頭の中が、ざわざわして……何も、掴めないの」


一ノ瀬は自らの胸をかき抱き、巨神兵の冷たい装甲の上で震えていた。

システムとの強制分離。それは彼女にとって、全人類と共有していた巨大な「快楽の海」から、一滴の雫として陸に打ち上げられたような衝撃だった。彼女の脳内を支配していた多幸感の波は去り、代わりに残ったのは、これまで彼女が肩代わりしてきた無数の他者の「苦痛」の残滓と、自分自身の空虚さだった。


地上の混乱は加速していた。一ノ瀬の「福音」に依存していた者たちが、突如として訪れた深刻なEDや不感症の再発に絶望し、暴徒と化す。彼らはもはや自力で「興奮」することも「満足」することもできず、ただ失われた「熱」を求めて互いの喉笛を鳴らしていた。


その最中、高城は崩壊しつつある管理本部のモニターを見つめ、決断を下す。

「……システムは死んだ。人類は去勢されたまま、再び野性に放り出されたというわけね」

彼女は冷徹な手つきで「ガーデン」の座標をロックする。

「佐藤、あなたたちが壊したこの世界の残骸を、誰かが管理しなきゃならない。ポリティカル・コレクトネスも、偽善も、これからは通用しない。私たちは、この『汚れ』の中で新しい統治を始めるわ」


高城が率いる軍隊は、暴徒を鎮圧しながら、唯一システムから隔離された聖域――「庭」の防衛へと動き出す。それは、一ノ瀬の能力を失った世界で、それでも「人間」として存続するための、あまりに現実的で残酷な再出発だった。


佐藤は、一ノ瀬の指を取り、自分の唇に寄せる。

「一ノ瀬、いいか。世界は今、君を憎んでいる。君が与えた『甘い毒』が切れて、みんな怒り狂っているんだ」


「……うん。……私、殺されちゃうのかな」


「僕がさせない。……君はもう聖女じゃない。ただの、僕の所有物だ。僕たちの『授業』は、これからが本番だ。薬物も、デジタル信号もなしで、君のこの冷え切った体をどうやって熱くするか……それを一から教え込んでやる」


佐藤は巨神兵を辺境の影へと走らせる。

地上の「青き清浄」は完全に失われ、空からはシステムを構成していたナノマシンの残骸が、まるで汚れた灰のように降り注いでいた。

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