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墜落した種子、あるいは自由という名の致死毒

「……認めない、か。相変わらず傲慢な男ね、佐藤」


高城は、拒絶された和解案を収めたタブレットを地面に叩きつけた。彼女は無機質な廊下の壁を殴り、隠し扉のインターフェースを起動させる。


「なら見せてあげるわ。システムが構築される前、自力で『愛』や『欲望』をコントロールしようとして、自滅していった者たちの成れの果てを」


重々しい隔壁が開き、一行は「アーカイブ・オブ・フォールン(墜落者の記録庫)」と呼ばれる空間へ足を踏み入れた。そこには、ガラスケースに収められた数千、数万の「石化した人間」のような彫像が並んでいた。


「これらは、一ノ瀬さんのような『聖女』を介さず、剥き出しの神経で快楽と苦痛を追い求めた結果、脳の報酬系が焼き切れて植物状態になった旧人類の標本よ。……人はね、佐藤。管理されなければ、自分を壊すまでボタンを押し続けるネズミと同じなの」


高城の言葉と共に、一ノ瀬の精神波が記録庫の残存データと共鳴し、ホログラムが浮かび上がる。かつての世界で、薬物や極端な刺激に依存し、生殖機能を喪失して絶滅の淵に立たされた人類の、目を背けたくなるような「自由」の末路。


「……う、うそ……。みんな、こんなに苦しんで……自分を壊して……」

一ノ瀬が震える手で彫像の頬に触れる。その指先から流れる多幸感の信号が、石化した彫像の神経を微かに震わせるが、それは救済ではなく「死の再起動」でしかなかった。


「見たでしょう。一ノ瀬さんという『安定した供給源』を失えば、世界は再びこの無秩序な地獄に還る。人々は快楽の奴隷となり、自ら去勢される道を選ぶわ」


高城は一ノ瀬の背後に回り込み、耳元で囁く。

「あなたは彼らにとっての『呼吸器』なのよ。あなたがシステムから離れれば、彼らは窒息して死ぬ。それでも、佐藤の言う『汚れた自由』が正しいと思うの?」


一ノ瀬の精神波が激しく乱れ、巨神兵の装甲が剥がれ落ちる。

佐藤は、高城の突きつける「正論」という名の呪縛を、ただ冷徹な眼差しで見据えていた。彼にはわかっていた。ここにあるのは過去の敗北であり、自分たちがこれから作る「地獄」の予行演習に過ぎないことを。


「……面白い見せ物だったよ、高城。……だが、彼らが自滅したのは『一ノ瀬がいなかったから』じゃない。『自ら苦しむ権利』をシステムに売り渡したからだ」


佐藤は一ノ瀬の手を引き、彫像たちの間を通り抜ける。

墓所の心臓部、OS「マザー」の本体がある最深部まで、あと数フロア。

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