表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
86/100

聖なる妥協、あるいは虚構の統治

「中央墓所」の巨大な門の影から、一人の女性が歩み寄った。

煤け、一部が焼け溶けた装甲服を纏いながらも、その背筋を伸ばした立ち姿は、かつての冷徹なリーダーそのもの――高城だった。


彼女の背後に控える兵士たちは、もはや銃を構えていない。彼らの瞳は一ノ瀬の「浄化の光」に焼かれ、虚ろな歓喜を湛えたまま、ただの従順な家畜のように立ち尽くしている。


「……皮肉なものね、佐藤。私が守ろうとした『現実』は、あなたの連れてきた『聖女』の慈悲の前に、砂の城のように崩れ去ったわ」


高城は自嘲気味に笑い、巨神兵の足元に広がる静寂を見つめた。


「全人類の八割が、すでに一ノ瀬さんの精神波に接続され、彼女なしでは心臓を動かすことさえ苦痛に感じる体になっている。……もう、引き返せない。私たちが戦えば戦うほど、彼女を求める民衆の餓死アゴニーが世界を壊すわ」


高城は、震える手でタブレットを取り出し、佐藤に提示した。それは「現実派」が土壇場で作成した、一ノ瀬を管理システムとして正式に組み込むための新憲章だった。


「佐藤、提案があるの。……一ノ瀬さんを、この中央墓所の『新しい神』として据えなさい。彼女の多幸感を、OSを介して適切に配分し、人類を穏やかな依存の中に安置する。……それが、この地獄に残された唯一の『ポリティカル・コレクトネス(正しい妥協)』よ。……彼女なら、人類を滅ぼさずに飼い慣らせる」


一ノ瀬は、高城の言葉を聞き、虚ろな瞳を向けた。

「……私が、みんなの神様……? ……苦しみを、ずっと吸い取ってあげられるの……?」


「そうだ、一ノ瀬。君は永遠の聖女として、この清潔な檻の中で君臨するんだ」

佐藤は高城を冷たく一蹴した。


「高城、君の言う『唯一の生き残り策』は、死よりも退屈な嘘だ。……一ノ瀬に、一生システムの一部として呼吸しろと言うのか? ……僕は認めない。彼女を神にするくらいなら、僕は、世界をもう一度『汚濁』へ引き摺り下ろす方を選ぶ」


佐藤の宣言と共に、巨神兵が咆哮を上げる。

和解の提案を拒絶された高城は、絶望と怒りが入り混じった表情で、墓所のさらに奥深く、暗黒の心臓部を見据えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ