中央墓所の開門、あるいは最後の大吸収(グランド・アブソープション)
巨神兵の足音が、ついに世界を統べる心臓部「中央墓所」を包む巨大ドームの前に到達した。背後に続く巡礼の列は、数万、数十万と膨れ上がり、地平線を埋め尽くしている。
ドームの門は、旧文明の強固なセキュリティプログラムによって閉ざされていた。それは一ノ瀬の単純な「介入」では解除できない、冷徹な論理の壁だ。
「……開かないわ、佐藤くん。この門は、『痛み』を知らない者を通さない。……システムが、私を『不純物』だと拒絶している……」
一ノ瀬の声は、巨神兵の処理能力に意識を奪われ、消え入りそうなほど細い。だが佐藤は、彼女の震える肩を抱き寄せ、耳元で冷酷な福音を囁いた。
「なら、その『痛み』を世界中から集めればいい。君が人々の依存を背負ったように、今度は彼らが最後に残した『人間としての未練』を吸い取るんだ」
一ノ瀬が覚悟を決めたように両手を広げると、巨神兵の胸部が眩い光を放ち、開いた。
**「最後の大吸収」**の始まりだった。
巡礼者たちの脳内に、一ノ瀬の情動が「逆流」して流れ込む。それと同時に、彼らが潜在的に抱えていた「去勢されたことへの怒り」「満たされない欠乏感」「死への恐怖」といった、システムが消し去ったはずのドロドロとした負の感情が一斉に引き抜かれ、一ノ瀬という「器」へと収束していく。
「……ぁ……ぐ、あああ……っ!!」
一ノ瀬の瞳が真っ赤に染まり、彼女の指先から血が滲む。
何十万人分もの「生身の苦痛」が彼女の神経系を焼き、精神を限界まで引き裂く。だが、その膨大なエネルギーが変換され、巨神兵の指先から「裁きの光」として放たれた。
バリバリと空間が裂ける音が響き、絶対に破れないはずの「マザー」の論理障壁が、一ノ瀬が吸い取った「人間の情念」の重みによって物理的に圧壊した。
巨大なドームの門が、重々しい地響きと共にゆっくりと左右に分かれる。
その奥から漏れ出してきたのは、清浄な空気ではなく、数千年の間沈黙を守り続けてきた「冷たい機械の死臭」だった。
「……行きましょう、一ノ瀬。人類を家畜に変えた、神様の正体を見に」
佐藤は、苦痛に喘ぐ一ノ瀬を支えながら、闇に包まれた中央墓所の深淵へと足を踏み入れた。背後では、すべての感情を吸い取られ、空っぽの殻となった巡礼者たちが、崩れるように砂の上に横たわっていた。




