巡礼の列、あるいは幸福への飢餓
巨神兵の進撃は、破壊ではなく「静寂」をもたらしていた。
一ノ瀬を核とした巨神兵が歩む道のりには、彼女の精神波を渇望する数千、数万の群衆が吸い寄せられるように集まり、長い列をなしている。
彼らは一ノ瀬による「聖女の処方」を受け、一時的な機能回復と引き換えに、彼女の発する波形なしでは生きていけない体へと作り替えられた信者たちだ。ある者は法悦に浸り、ある者は禁断症状に震えながら、巨大な鋼鉄の影を追う。
「……見て、佐藤くん。みんな、あんなに一生懸命ついてくるわ。私がいないと、もう息もできないみたいに……」
一ノ瀬は巨神兵の肩に座り、眼下の群衆を見下ろしている。その表情には、自らの「毒」で人々を支配していることへの加虐的な悦びと、聖女としての慈愛が未分化のまま混ざり合っていた。
「ああ。君が彼らから『痛み』を吸い取れば吸い取るほど、彼らは自立する力を失っていく。……これはもはや、生きているのではなく、君という麻薬に生かされているだけの行列だ」
佐藤は信者たちのバイタルをモニターしながら、冷酷に告げた。
彼らの心拍数は一ノ瀬の感情曲線と完全に同期しており、一ノ瀬が微かに「不安」を感じれば群衆は絶望し、「歓喜」すれば集団パニックに近い絶頂に陥る。
「……でも、佐藤くん。このまま進めば、世界OSの中枢に辿り着ける。そうすれば、こんな歪な形じゃなくても、みんなを『本当の平和』に連れていけるんでしょう?」
「……『本当の平和』か。それはシュワの墓所が約束した、永久の眠りと同じ意味かもしれないがな」
佐藤の視線の先、地平線の彼方に、世界を管理するOSの本尊「中央墓所」を覆う巨大なドーム状の影が見え始めていた。
そこは、人類を去勢し、管理された楽園に閉じ込めた「マザー」の心臓部。
その時、巡礼の列を遮るように、上空からフレアが放たれた。
高城が率いる「現実派」の残存艦隊が、なりふり構わぬ最終阻止線を築こうとしていた。彼女たちが掲げるのは、一ノ瀬の多幸感に頼らない「苦痛に満ちた、だが本物の現実」への回帰である。




