胎動する裁定者、あるいは「僕」の誕生
一ノ瀬の叫びに呼応するように、廃墟の地盤が内側から弾け飛んだ。
高城の部隊が展開していた足場は、巨大な鋼鉄の「指」のような構造物が突き出したことで無惨に崩落する。
佐藤は一ノ瀬を抱えたまま、瓦礫と共に奈落へと滑り落ちた。
辿り着いたのは、旧世界の光さえ届かない地下深く。そこは「墓所」へと続く前室であり、人類のバイタルを一括管理するために設計された物理破壊ユニット――**巨神兵**の揺り籠だった。
「……これが、世界を焼き切るための杖か」
佐藤は、目の前に鎮座する巨大な幼体を見上げた。それは生命体でありながら、全身を光ファイバーの血管が巡り、世界OSの根幹と直結している「システムの具現」だった。
一ノ瀬の精神波が、その幼体と「共振」を始める。
彼女が抱える絶望、陶酔、そして佐藤への歪んだ愛が、デジタル信号となって巨神兵の神経系へ流れ込んでいく。
「……ぁ……、……お父……様……?」
不意に、地響きのような、しかし幼い子供のような声が空間に満ちた。
巨神兵の幼体が、一ノ瀬の意識を媒介にして、佐藤を自らの「親」あるいは「主」として認識し始めたのだ。
「……いい子だ。僕だよ、一ノ瀬の……そして君の導き手だ」
佐藤は、バイオ・ジェルの容器に手を触れた。
一ノ瀬の能力が、巨神兵という強大な武力を通じて、概念的な「救済」を物理的な「強制執行」へと変質させる。一ノ瀬の「聖女の熱」が巨神兵の動力源となり、その背中から、OSの管理レイヤーを物理的に焼き切るための「光の触手」が伸び始める。
「佐藤くん……この子、泣いているわ。……みんなを救うために、みんなを殺さなきゃいけないって……わかっているのね」
一ノ瀬は恍惚とした表情で、巨神兵の容器に寄り添った。
彼女が流す涙は、もはや個人のものではない。世界OSという名の牢獄で去勢され、眠らされていた人類すべての「目覚めへの恐怖」だった。
地上では、高城が絶望的な形相で崩落した穴を覗き込んでいた。
彼女が恐れていた最悪のシナリオ――聖女と独裁者が、世界を終わらせる「神」を手に入れた瞬間だった。




