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虚構の生殖、あるいは去勢のアルゴリズム

「沈黙の塔」の外壁に、管理部隊のドローンが放つレーザーが刻まれ、火花が散る。しかし、佐藤の意識はすでに現実の危機を離れ、世界OSの最深部、旧人類が遺した「禁忌のライブラリ」へと潜り込んでいた。


「……一ノ瀬、感覚を研ぎ澄ませ。君の脳内報酬系にノイズとして混ざっている『意図』を抽出するんだ」


佐藤の指示に従い、一ノ瀬は自らの情動をOSの深層ドメインへと流し込む。

モニターに展開されたのは、人類の進化を物理的に停止させるための膨大なデータ群。それは「愛」や「欲望」といった不確定要素を排除し、人類を最適な個体数と低い代謝で維持するための去勢アルゴリズムだった。


「……佐藤くん、これ……。みんなが悩んでいたEDも、射精障害も、病気じゃなかったのね。……システムが、意図的に神経伝達物質をブロックして、私たちが『子孫を残そうとする情熱』を持たないように制御していたんだわ」


一ノ瀬の瞳から、一筋の涙がこぼれる。彼女が「治療」として与えていた絶頂は、皮肉にもこの強固な制御を一時的にオーバーロードさせる「バグ」のようなものだった。しかし、システムはそれすらも予測しており、一ノ瀬の「聖女の熱」を最終的なリセット(精神の去勢)のためのトリガーとして利用しようとしていた。


「旧人類は、争いのない平和を維持するために、人間から『野生』を奪った。……僕たちは、眠るために最適化された家畜だったんだよ。高城たちが守ろうとしている秩序の正体は、この巨大な墓標の維持に過ぎない」


佐藤は、一ノ瀬の背後からキーボードを叩き、ある隠しコマンドを走らせた。

システムの「去勢」を解除するのではない。その「去勢」という名の平穏を、一ノ瀬の「汚れた愛」で内側から破壊するための毒を仕込むのだ。


「……佐藤、そこまでよ」


塔のハッチが爆砕され、高城が率いる実働部隊がなだれ込んできた。高城の銃口は、一ノ瀬の眉間を正確に捉えている。彼女の顔には、世界を守る者の決意と、かつての教え子たちを手にかけなければならない悲痛な色が混ざり合っていた。


「一ノ瀬さんをこちらへ渡しなさい。……彼女をネットワークから物理的に遮断して、強制終了シャットダウンさせる。それが、この狂った世界を救う唯一の道なの」


「……救う? 高城、君はまだ、この家畜小屋の飼育員でいたいのか?」


佐藤は静かに立ち上がり、一ノ瀬を守るようにその前に立った。彼の瞳には、かつての理知的な影はなく、一ノ瀬と共に地獄を歩むことを決めた「独裁者」の光が宿っていた。

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