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虚構の設計図、あるいは墓所への座標

「……一ノ瀬、目を開けるんだ。まだ消えちゃいけない。世界の『熱』を、その体に繋ぎ止めておけ」


佐藤の叫びが、情報の荒嵐の中でかろうじて一ノ瀬の意識を繋ぎ止めていた。

ラボのメインモニターは、すでに現実の光景を映してはいない。一ノ瀬の脳波が世界OSの深層ドメインを侵食したことで、隠蔽されていた「旧文明の残滓」が濁流のように溢れ出していた。


[System Alert: Unauthorized access to 'MAUSOLEUM' protocol detected.]

[Warning: Population synchronization level exceeds 98%. Moral parameters collapsing.]


「……佐藤くん、見えるわ。……暗い、冷たい場所に、数えきれないほどの『卵』が眠っている。……そこから、ずっと、この信号が出ていたのね」


一ノ瀬の視界に流れ込むのは、数千年前の設計図。

世界OSが単なる管理システムではなく、人類の「野生」を去勢し、永遠の安楽死へと導くための巨大な「墓所」であるという真実だった。現代のEDや性機能障害の蔓延は、故障ではなく、システムが計画的に人類の繁殖本能を削ぎ落としてきた「成果」に過ぎなかったのだ。


「……皮肉なものだな」

佐藤は、狂ったようにスクロールするバイナリコードの中に、ある特定の幾何学模様を見出した。

「僕たちが一ノ瀬の能力で人々を救っていると思っていたのは、このシステムが用意した『最終工程』の一部だったわけだ。……過剰な快楽を与え、個体としての意志を焼き切り、完全に家畜化する。……その仕上げに、君という『聖女』が必要だったんだ」


佐藤の指が、モニター上に浮かび上がる地図の断片を捉える。

それは、都市の地下深く、物理的なネットワークの中枢にして「旧コア(マザー)」が鎮座する聖域――**中央墓所(シュワの墓所)**の座標だった。


「……佐藤、逃げなさい……!」

床に伏したままの高城が、掠れた声で警告する。

「今、上層部が『物理的なリセット』を承認したわ。……このラボごと、あんたたちを焼却するつもりよ。……一ノ瀬さんを殺して、システムを初期化するために!」


「……そうはさせない」

佐藤は一ノ瀬をポッドから抱き上げ、彼女の細い首に繋がった主要なケーブルを力任せに引き抜いた。

一ノ瀬の体温が、佐藤の肌に伝わる。

「一ノ瀬、行こう。……君を道具にしたこの世界の『真の顔』を見に。……そして、僕たちの手で、この偽りの平穏を終わらせるんだ」


ラボの天井が、外部からの爆撃予兆で激しく震え始める。

佐藤は、一ノ瀬の指にあるリングを握り締め、崩壊する「教室」を後にした。

彼らの向かう先は、巡礼の旅路の始まり。汚濁に満ちた真実が眠る、システムの心臓部だった。

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