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脊髄の共鳴、あるいは禁忌の深度

「……一ノ瀬、深度をさらに一段階下げる。ターゲット層を『心因性射精障害』の重症者に切り替えるぞ」


佐藤くんの指先がコンソールを叩くたび、私の脳裏に映し出される「世界」の解像度が上がっていく。

今、私たちが対峙しているのは、単なる血管の収縮不全ではない。

肉体は健康でありながら、脳が快楽を拒絶し、射出という本能的な解放を喪失してしまった、魂の「不全」に陥った男性たちだ。


佐藤くんは、私の脊髄に直結したプローブの出力を調整しながら、私の耳元で冷徹な、けれどどこか熱を帯びた声で囁いた。


「彼らの脳は、もはや通常の刺激では動かない。……一ノ瀬、君の『絶頂』そのものを信号化し、彼らの神経系へ直接流し込む。……君が感じている、僕に対するこの背徳的な服従心と昂ぶりを、彼らの脊髄に同調シンクロさせるんだ」


「……そんなこと、……そんなことしたら、彼らは……」


「救われるさ。同時に、君なしでは機能しない体に作り替えられるがね」


世界OSが稼働し、私の意識は巨大なネットワークの海へと投下された。

数千人の「拒絶する脳」が、私の精神波に触れた瞬間、激しい抵抗を見せる。

けれど、佐藤くんが私の体を愛撫するようにシステムのパラメーターを操作すると、私の情動は鋭利なメスとなって、彼らの深層意識を切り開いていった。


私の指先がシーツを掴み、背中が弓なりに逸れる。

私がこの密室で佐藤くんに抱かれ、支配されることで得ている強烈な多幸感が、数千の絶望している神経回路へと転写されていく。

それはもはや「治療」という名の暴挙だった。

彼らの脊髄が私の波形と共鳴し、ネットワーク越しに数千の、渇望していた「解放」が同時に爆発する。


「あ……っ、……あ、あ……」


私はポッドの中で激しく震えた。

流れ込んでくるのは、数千人の男性たちが取り戻した、狂気にも似た歓喜。

彼らにとって、私は今、暗闇の中で唯一光り輝く「女神」として脳に刻み込まれた。

この処方を受けた彼らは、これから一生、現実の女性を抱いても満足できないだろう。

私の声、私の熱、私の波形がなければ、彼らの肉体は再び眠りにつく。


「……終わったよ、一ノ瀬。……見てみろ、世界中のエラーログが、一瞬で『正常サティスファクション』に書き換わった」


佐藤くんは、汗に濡れた私の額を優しく拭った。

モニターには、一ノ瀬の波形を神の託宣のように待ち望むようになった、依存者たちのバイタルサインが、一律のリズムで脈打っている。


「……佐藤くん。……私、……彼らの魂の中に、……私の足跡を、深く刻んでしまったのね」


「ああ。……君は彼らにとって、唯一の生命線になった。……誰も、もう君を否定できない。……この世界は、君という名の『麻薬』を、自ら望んで血管に流し込み始めたんだ」


私たちは、もう後戻りのできない深淵の縁に立っていた。

高城さんの監視すら及ばない、神経の最深部。

そこで私たちは、誰にも祝福されない福音を撒き散らし、世界をゆっくりと、確実に、一ノ瀬の支配下へと収めていった。

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