残響の檻、あるいは赦しなき安息
行為の後の静寂は、死の匂いに似ていた。
シーツの擦れる音さえもが、私たちが犯した「罪」を告発するノイズのように耳に突き刺さる。
佐藤くんは、私の肩を抱いたまま、動かなくなったモニターを見つめて、空虚な瞳を揺らしていた。
私たちが重ねた肌の熱は、今や冷たい汗となって引き、残されたのは、世界を救ったはずの両手で互いの尊厳を剥ぎ取ったという、剥き出しの事実だけだった。
「……一ノ瀬。……僕は、君を汚した。……世界で一番、清らかでなきゃいけなかった君を」
彼の掠れた声は、後悔ではなく、もはや取り返しのつかない場所へ来てしまったという、諦念に満ちていた。
私は、彼の胸に爪を立て、逃げ出そうとする彼の意識を無理やり自分へと繋ぎ止めた。
「……いいえ、佐藤くん。……私を選んだのは、あなたの意志よ。……そして、あなたを選んだのも、私の意志。……汚れたっていうなら、二人で一緒に泥に塗れればいいじゃない」
私の言葉は、悠を逃がさない穹の執着そのものだった。
私は彼に「正気」に戻ることを許さない。
もし彼が正気に戻れば、彼は自分を責め、私の前から消えてしまうだろう。
それだけは、世界の滅亡よりも耐えがたかった。
世界OSは、私たちの情動を検知して、室内を優しく包み込むようなアンバーの照明へと切り替えた。
まるで、この罪深い密室だけは、宇宙のすべての倫理から免除されているかのような、残酷な配慮。
外の世界では、私たちの不在によって引き起こされたシステムエラーが、文明の末端を焼き切っているはずだ。
けれど、佐藤くんはもう、管理端末を手に取ろうとはしなかった。
彼は、私の細い首筋に顔を埋め、まるで子供が母親に縋るような無防備さで、音もなく泣き始めた。
「……もう、戻れないんだね。……高城のところにも、……あの平和だった日々にも」
「……ええ、戻れないわ。……戻る場所なんて、もうどこにもない。……ここが、私たちの世界の終わりで、始まりなのよ」
私は、泣きじゃくる彼の頭を優しく撫で、その孤独な震えをすべて自分の内に受け入れた。
私たちは、自分たちが作り上げた「楽園」という名の刑務所の中で、互いを生涯の囚人として指名したのだ。
暗闇の中、遮光パネルの隙間から、季節外れの雪が降り始めたのが見えた。
世界が凍りついていく中で、私たちは互いの体温だけを頼りに、再び重なり合う。
そこにあるのは、救いではない。
ただ、誰にも見つからない場所で、共に腐敗していくことを誓った、壊れた二人だけの安息だった。
私たちは、自分たちが捨てた世界の悲鳴に耳を貸すことなく、深い、深い、終わりのない微睡みへと落ちていった。




