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放課後の不協和音

放課後の旧校舎は、死後の中庭のように静まり返っていた。

私は、昼休みに渡したドリンクのせいか、顔を真っ赤にして早退しようとした佐藤くんのことが気がかりで、彼の後を追っていた。


一階の奥、今は使われていない備品倉庫の前で足が止まる。

閉ざされた扉の向こうから、重苦しい、けれど激しい「音」と、女子生徒の艶めかしい声が漏れ聞こえてきた。


「……っ、ん、……佐藤くん、すごい……っ! そんなに激しく動かされたら、私、もう……っ!」


「……はぁ、……はぁ、……くそ、……止まらないんだ……っ! 一ノ瀬のせいで、……全部、中に出し切らないと……っ!」


聞こえてきたのは、佐藤くんの荒い喘ぎ声と、クラスメイトの高城さんの、身を震わせるような叫び。

そして、重い液体が何度も激しく、肉体とぶつかり合うような――ドチャ、ドロリ――という、生々しい音が静かな廊下に響き渡っていた。


さらには、私の鼻腔を刺激する、あの「清潔」を象徴する無機の匂いが、これまでにない濃度で溢れ出している。


私の中に、言いようのない衝撃が走った。

佐藤くんは私と向き合うために、あんなに過酷な「修行」を積んでいたはずなのに。


それなのに、高城さんと二人きりで、あんなに淫らな――男性という生物の本能を剥き出しにした行為に耽っている。

私には向けない、あの激しい欲望を、今まさに高城さんに注ぎ込んでいるのだ。


「……ああ、……もう、……溢れる……っ! 佐藤くん、もっと、一番奥まで……っ! 全部、……全部私に預けて!」


「……分かっている……っ、……これで、……最後だ……ッ!」


――ビチャッ、ドロリ、グチュ……。


耐えきれなくなった私は、扉を勢いよく開け放った。


「佐藤くん、何をしているの……っ!」


叫びながら突入した私の目に飛び込んできたのは、想像していた光景とは、決定的に何かが違うマヌケな現場だった。


そこには、破裂した「超強力消臭洗剤」のボトルの前で、四つん這いになって床を雑巾で激しくこすっている佐藤くんの姿があった。

高城さんは、彼の隣で、飛び散る洗剤から制服を守るために必死に彼の背中を支え、奥に押し込められたバケツを差し出していたのだ。


「……一ノ瀬……?」


佐藤くんが、虚脱したような、けれどどこか絶望的な目で私を見た。


彼は、私が渡したドリンクを飲んだ直後、極度の動悸で手が震え、よりにもよって備品庫の「業務用消臭原液」を床にぶちまけてしまったらしい。


高城さんは、手にしたバケツを必死に抱えながら、真っ赤な顔で私を睨みつけた。


「ちょっと一ノ瀬凛! あんた、佐藤くんに何を飲ませたのよ! 彼、これを飲んだ直後から手が震えちゃって、床一面にこの強力洗剤をブチまけちゃったじゃない! 早く拭かないと床が腐るって、彼、パニックになって……!」


私には分かった。

これは決して、性急な快楽などではない。


佐藤くんは、私が与えた「過剰なエネルギー」によって、制御不能になった己の肉体と戦い、その結果として起きた「大惨事」を、必死に隠蔽しようとしていただけなのだ。


高城さんは、その凄絶な「掃除作業」を介助していたに過ぎない。


「……すまない、一ノ瀬。……見苦しいところを、……見せた。……だが、……これでようやく、……全部拭き取れた……」


佐藤くんは、真っ白な顔で力なく笑い、最後の一絞りをバケツに落とした。


その足元には、彼が私という存在を前にして「正気」を保つために、自らのミスを帳消しにしようと振り絞った「洗剤の泡」が、海のように広がっていた。


私は、彼がそこまでして「私との放課後」を台無しにすまいとするその献身に、胸を打たれずにはいられなかった。

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