真の平和への方程式
高城さんの突きつけた真実は、私たちが抱いていた淡い希望を無慈悲に粉砕した。
国家が狙っていたのは、私の美しさを「麻薬」として利用し、全人類の意志を奪う精神的な独裁だった。
「……理解したかしら。……貴女の力が誰かの管理下にある限り、それは平和ではなく、ただの巨大な牢獄なのよ」
高城さんは吐き捨てるように言い、周囲の追っ手たちの精神を自身の力で掻き乱し続けた。
佐藤くんは、自分の平和利用という理想が最悪の形で利用されようとしたことに、激しい衝撃を受けていた。 だが、彼は膝をついたまま、震える声で高城さんを見上げ、新たな可能性を口にした。
「……だったら、……管理されるんじゃない。……一ノ瀬の力を、誰の手にも渡らない『定数』に変えればいいんだ」
その瞳には、絶望を通り越した、冷徹なまでの論理的な輝きが宿っていた。
佐藤くんの提案は、私の力を特定の施設から発信するのではなく、世界中の人々の「潜在意識」に直接、微弱に溶け込ませるというものだった。
強烈な魅了で服従させるのではなく、人が怒りや憎しみを抱いた瞬間にだけ、ふと私の「穏やかな音」が脳裏をよぎるようにする。
それは強制的な平和ではなく、人が自ら「立ち止まる」ための、ほんの一瞬の猶予を与えるための「良心の響き」。
「高城さん、君の『否定』の力が必要だ。……一ノ瀬の『肯定』が甘すぎる毒にならないよう、君がその毒を中和してくれ」
高城さんは、佐藤くんのあまりにも突飛で、けれど理にかなった提案に、呆れたような溜息をついた。
「……私に、あんなお花畑みたいな女と手を組めって言うの?……反吐が出るわね」
そう言いながらも、彼女は私に向けられていた鋭い敵意を、外側の追っ手たちへと向け直した。
「……でも、国家の犬たちにこの世界を飼い慣らされるよりは、マシな地獄かもしれないわ」
私は、正反対の性質を持つ二人の間に立ち、自分の力の新たな使い道を確信した。
私の美しさは、誰かを支配するためのものではなく、世界という不協和音の中に「静寂の1音」を差し込むためのもの。
私たちは、自分たちを実験体として扱ってきた国家の施設を逆手に取り、そこから世界へ「真の平和」の旋律を流す決意をした。
「……行きましょう、二人とも。……世界を、私たちの『音』で上書きするために」
追っ手の包囲網を、高城さんの「否定」で切り裂き、私の「肯定」で無力化しながら、私たちは突き進む。 佐藤くんという指揮者を迎え、相反する二人の少女の力が、世界の均衡を書き換えるための序曲を奏で始めた。




