毒を薬に変える、理性の反撃
高城さんの放つ「憎悪と猜疑心」の波動が、倉庫の空気を重く、どす黒く塗り替えていた。
私の光と彼女の闇が激突する中心で、佐藤くんは激しい拒絶反応にのたうち回り、地面を掻きむしっていた。
「……っ、……やめろ、……お前ら……、俺を……壊すな……っ!」
彼の叫びは悲痛だったが、その瞳の奥には、濁流に抗うような強固な意志の光がまだ消えずに残っていた。
高城さんは勝ち誇ったように、さらに歪んだ感情を彼の中に流し込もうと腕を広げた。
「……無駄よ、一ノ瀬。……どんなに純粋な光でも、受け手の心が闇に染まれば、それはただの執着に変わるわ」
だが、そのときだった。
佐藤くんが震える手で、ポケットからあの一件以来ずっと持ち歩いていた、古びたイヤホンを取り出した。
彼はそれを無理やり自分の耳にねじ込み、最大音量で「ノイズ」を流し始めた。
私への愛欲も、高城さんから植え付けられた憎悪も、すべてを等しく掻き消すための自傷に近い防御策。
「……一ノ瀬……、聞こえるか……。……お前の力は、……男を狂わせるためのものじゃない……」
彼は血の滲むような思いで顔を上げ、私と高城さんの間に、ふらふらと立ち上がった。
彼はノイズに耐えながら、私の放つ強烈なオーラと、高城さんの憎悪の波動を、同時に自分の体で受け止めた。
「……正反対の……この二つの力が、……もし同時に、……同じリズムで刻まれたら……」
彼の言葉に合わせるように、私の「肯定」と彼女の「否定」が、彼というフィルターを通して、不思議な調和を見せ始めた。
激しく反発し合っていた力が、彼が介在することで、攻撃性を失った「無」の静寂へと変質していく。
佐藤くんの瞳から濁りが消え、代わりに見たこともないほど澄んだ、透き通った理性が宿った。
「……お前の美しさは、……争う者たちの闘争本能を、……強制的に『初期化』できるんだ」
彼は、私の美しさがもたらす陶酔を、戦場で武器を置かせるための「究極の鎮静剤」として利用する道を見出した。
特定の誰かを支配するためではなく、全人類の脳に「静寂」という快楽を与えることで、暴力を物理的に不可能にする平和利用の形。
高城さんは、自分の放った闇が穏やかな凪へと浄化されていくのを目の当たりにし、戦慄して後退りした。
「……ありえないわ、……そんな……。……毒を混ぜて、……薬にするなんて……」
佐藤くんは、ふらつく足取りで私の隣に立ち、力強く私の肩を抱き寄せた。
私たちは今、国家の手を借りることなく、この力で世界を正しく変えるための「鍵」を手に入れたのだ。




