議事堂
午前8時50分。レフは議事堂の傍聴者入口に並んでいた。
レフも首からIDホルダーをかけた。「ヴィクトル・マリン」の名と、架空の通信社のロゴ。
入口のチェックが始まった。係員に書類を渡した。確認される。顔写真と見比べられる。3秒の沈黙。
「お通りください」
ホールへ進んだ。
指定の委員会室は、下院外交問題委員会の部屋。中規模の、正面に議員席が雛壇状に並び、証人席が1つ、その前にマイクが置かれている形式の部屋だ。傍聴席は証人席の後ろに、100席ほど。
レフは中央から少し右寄りの席を選んだ。証人席まで直線距離で2メートル。出口まで8メートル。
席に着き、周囲を確認した。傍聴席はまだ半分ほどの入りだった。右の前方に、テレビカメラが3台設置されていた。CNNのカメラが1台、ネットワーク局のカメラが2台。いずれも生中継の準備をしていた。
生中継。それが全ての前提だった。議場の中で何が起きようとも、一定量の情報は世界に流れる。議長がマイクを切っても、カメラを向ける人間がいる限り、映像は残る。
9時55分。傍聴席がほぼ満席になった。議場の空気が凝縮した。何かが始まる前の、あの独特の静寂。
そのとき。証人控室のドアが開いた。
最初の証人が入ってきた。3番目に、ナイラが入ってきた。黒いスーツ。白いブラウス。手にバッグを持っていた。
表情は固かった。作ろうとしているのではない。崩れないように、必死に固定している顔だった。しかし崩れてはいなかった。証人席の列の最後部に座り、前を向いた。
レフは2メートル先の彼女を見た。ナイラはバッグを膝の上に置いた。それだけで、レフには分かった。マイクロフィルムとカセットは、中にある。彼女は来た。そして、やる気でいる。




