袋小路の二人と、目覚める意志
逃亡の果てに辿り着いたのは、海沿いにある寂れた廃倉庫街だった。
佐藤くんは激しい逃走で肩を上下させ、私の手を握る力も限界に近いように見えた。
「……ここまで来れば、……一度は撒けたはずだ……」
彼がそう言って重い鉄の扉を開け、私を中へと招き入れた。
倉庫の中は冷たく湿った空気に満ちており、遠くで波の音だけが不気味に響いていた。
「佐藤くん、ごめんなさい。……私のせいで、あなたまでこんな目に……」
私が俯くと、彼は熱の引いた白い指で、そっと私の頬に触れた。
「……謝るな。……俺は、自分の意志でお前と一緒にいるんだ」
だが、安らぎは長くは続かなかった。
倉庫の天井付近にある高窓から、突如として強力なサーチライトの光が差し込んだ。
「一ノ瀬様、無駄な抵抗はやめてください。……周囲は完全に封鎖しました」
拡声器を通した冷徹な声が、広い倉庫内に反響し、逃げ場がないことを突きつけてくる。
佐藤くんは私を背後に隠し、落ちていた鉄パイプを必死に握りしめた。
その震える背中を見たとき、私の中で何かが、静かに、けれど決定的に壊れた。
「……もう、いいわ。……これ以上、誰にも邪魔させない」
私は彼の背中に手を置き、自分の中に眠る「力」の根源に意識を集中させた。
今までは受動的に溢れていた私の美しさが、明確な「拒絶」の意志を持って収束していく。
私が一歩前へ踏み出すと、倉庫の扉を突き破って突入してきた武装集団が、一斉に動きを止めた。
銃を構えていた指が力を失い、彼らの瞳から戦意が急速に消え失せていく。
それはもはや単なる魅了ではなく、脳の神経系に直接干渉し、強制的に「降伏」を強いる圧倒的な王の波動だった。
「……あ、……あぁ……。……なんて、……神々しい……」
防護マスクを被った男たちが、一人、また一人と武器を捨て、その場に膝をついて頭を垂れた。
私は彼らの間を静かに通り抜け、ライトの光源へと視線を向けた。
国家がこの力を利用しようというのなら、私はその国家そのものを、私の美しさの前に跪かせてみせる。
佐藤くんは、私の隣で呆然としながらも、その光景をしっかりと目に焼き付けていた。
私たちはもう、ただ逃げるだけの獲物ではない。
力を使って世界を変えるための、最初の一歩を、私たちはこの暗い倉庫の中から踏み出した。




