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結局、リーディの指輪以外にあったのは、「行動速度 +小」または「極小」の者ばかりだった。攻撃力や精度であれば「+中」のものもあったが、一つでも結構な値段がするものばかりだったし、今回の目的ではないのでやめておいた。リーディの知り合いだというその職人が俺たちの誘いを断ったら、その時にまた買いにくればいい。
「そういえばさあ」
宝石店で、商品を物色しながらヴィクトリアがいう。
「あんたの知り合いだっていうその職人、男? 女?」
「……女」
俺がその効果を「行動速度 +小」だと告げたブレスレットを店員に渡しながら、ヴィクトリアが髪をかき上げた。緩やかにウェーブした亜麻色の髪が、蠱惑的に揺れる。
「……何? 女じゃ不満?」
「別に。あたし達には喉から手が出るほど欲しい職人だもの。この際男か女なんてささいな問題よ。でも、そうね。これ以上ライバルが増えるのは勘弁してもらいたいところね」
リーディの肩がピクリと揺れる。ライバル? 何の話だろう。
不思議に思いながらも、いったん意識を店内に向けると、アリアン嬢が「綺麗だから」という理由でネックレスを手に取っていた。店頭にあったのと似たような、宝石がちりばめられているものだ。でもそれ、効果は「抵抗 +極小」だぞ。
何が違うんだろうな。使ってる宝石の種類なんだろうか。
俺が思い悩んでいると、リーディとヴィクトリアの会話は続いていたようだ。
「なるほどね。背に腹は変えられない、ってわけね」
「そう」
「わかったわ。あんたの漢気、無駄にはしない。かならずその職人を連れて帰りましょう」
「私は女」
二人、ひしと抱き合っている。なんなんだ本当に。まあ仲がいいのはいいことだ。俺は店内をもう一度物色すると、「行動速度 +中」以上の品物がないことを確認して、三人に声をかける。リーディの話では、もう一店舗あるという話だったからな。そちらも見ておきたい。
店員に、先ほどの指輪を購入したい旨を伝えると、もう一度現品を出して来た。店員としては品物を間違っていないことを最優先にしているのだろうが、俺にとっては別の意味を持っている。
『鑑定屋』で再度効果の確認。それが確かに「行動速度 +中」の効果を持つことを確認し、さらにリーディの指にはまるかを確認する。指輪は、彼女の人差し指にするりと嵌った。あつらえたようだ。
満足して頷き、ヴィクトリアの顔を確認する。どうだい。これでとりあえず何とかなりそうかい?
しかし彼女の顔は渋いものだった。苦虫を100匹くらい口に入れて無理やり咀嚼させたらこんな顔になるのではないか。
ええー。どういうことだよ。
リーディに目を移すと、こちらはこちらで何か不満そうな顔をしていた。自分の人差し指と薬指を見比べて、手を傾けたりしている。何なの本当に。
アリアン嬢は? と思って振り返り、ぎょっとした。彼女は笑っていた。ただ、その笑顔がいけない。驚くほど悪い企みをしている顔だ。これはちびっこには決して見せられないタイプのやつだ。
「どうしたの? 早く買ってちょうだい」
ヴィクトリアにそう言われて、慌てて店員にお金を支払う。というかお前がそんな顔しなかったら、もっとすっと会計が進んだんだが。
リーディの言う通り、帝国の通貨はここでしっかりと通用した。店員は当たり前のようにお金を受け取ると、一礼してから商品を包み始める。クルミだろうか。しっかりした、濃い茶色の木箱を用意し、その中にベルベットの台座が入っているケースを用意し、その中に指輪を丁寧にしまった。
品物を受け取り、リーディに渡す。彼女は宝物でも受け取ったかのように箱を抱きしめた。
店の外に出ると、もうすっかりと日が沈むところだった。町のあちこちで、青い炎が焚かれ、夜を明るく照らしている。
「こっち。ここからはそう遠くないけど、日が沈んだらしまっちゃうお店だから、少し急ぐ」
元魔王候補の少女に先導され、さらに表通りから離れた細い道を行くこと5分。彼女の先導がなければ、宿に帰ることすら困難だろう。店が閉まる時間が近いと焦っているのか、彼女の足取りはかなり早かった。見失うまいと、必死についていく。
少しすると、目の前に、いかにもといった感じの建物が現れた。
「いかにも」と俺が感じた理由は単純で、明らかにどこかの部族が使っているであろう盾やネックレス、寒い国から取り寄せたのだろうか、もこもこの毛皮に包まれた帽子や、逆に暑い国から取り寄せたであろう、草で作った腰ミノなどが、店の前にうずたかく積まれていたからだ。
先ほどの宝石店に比べると、明らかにここは異物感がすごかった。一種異様な雰囲気さえする。
俺が入るのを躊躇していると、リーディが俺の腕を取って言った。
「心配いらない。世界中の珍しい品物がここに集まってくる。いろんな国から。多分私の知り合いが作ったものもある、と思う。たまに息抜きで、変な人形みたいなの作ってたのを見たことがある」
「マジか」
「マジ。大マジ」
それなら、見てみないわけにはいかない。彼女の知り合いが、どれほどのものを作るかに興味がある。民芸品店に卸すくらいだから、そこまで高い効果は見込めないだろうが。
店内に入ると、そこはまた異世界だった。まるで博物館のように、様々な品物が所狭しと並んでいた。
俺たちの後に続いて入ってきたアリアン嬢とヴィクトリアが、顔をしかめるのが分かった。この店には、なんというか、独特の匂いのするお香が焚かれている。薬草を煮詰めたような、お世辞にも心地よいとは言えない匂いだ。それが鼻についたのだろう。
リーディは波をかき分けるように、品物の間をすり抜けていく。俺は並んでいる品物を見て、どんな効果があるのかを『鑑定屋』で確認していた。
内容的には、先ほどの宝石店とそう変わらない。効果は大体が「+小」か「+極小」で、
「+中」の効果を持つ品物があっても行動速度ではない。
例えば、そこにある、首から下げるタイプの木彫りの札みたいなもの。木彫りなので、やや厚めに取られた幅。中央によくわからない人型が彫りこまれている。細工は精緻で見事なものだ。
効果は「防御 +中」だ。この人型が護っているとでもいうのだろうか。
「クリス、あった。こっち」
リーディから声がかかるが、彼女がどこにいるのかわからない。奥へと進むと、カウンターに近いショーケースの前に佇んでいる彼女を見つけた。
「これ」
「これか。どれどれ……」
置いてあったのは、仮面だった。顔を完全に覆うタイプ。縦に長い楕円形で、おそらくは木製だろう。表面には、驚くほど細かい細工と、赤や黄色、青、緑など、様々な色彩で模様が施されていた。目に当たる部分に穴が開いている。
「なんだ、これ……。こんなものが、店で売ってる……?」
「どうだった? いいものだとは思うけど、私には効果が分からない」
俺はリーディの方を振り向くと、彼女の肩を掴む。少し驚いたような顔の彼女に、続けた。
「いや、意味が分からん。こいつの効果は『攻撃 +大』だ。このレベルのものが店売り?」
「すごい?」
「すごい。すごすぎると言ってもいい。これはまいった。是非うちの専属になってほしい」
肩を掴まれたまま、リーディが嬉しそうに、へへ、と笑った。




