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「さて、それはそうと、このお宝は見逃せないよな」
「ええ。『攻撃 +大』なんて、あたしも見たことないもの。リーディの知り合いがあたしたちに力を貸してくれなかった時のことも考えて、これは買っておくべきだと思うわ」
ヴィクトリアの言葉に、俺は頷く。
「ところで、『大』とか『中』とかって、具体的な数字はわからないんですか? 前に、リザさん達のステータスを見ていた時って、数値で教えてくれましたよね?」
「ああ、あれはな」
アリアン嬢を向き直り、俺は続ける。
「装備していると、その人に合わせて数字がわかるみたいなんだが、身に着けていないとわからないんだ。今、俺の目の前には『大』って文字が浮かんでるよ」
「私の、指輪」
俺の袖を引っ張ったのはリーディだ。彼女に向き直り、『鑑定屋』で数値を見る。
「『行動速度 +12』だな」
「リザ・メナはいくつだって?」
「+25だったかな」
「それじゃ、彼女たちが持っているのは『+大』か、その上の効果ってところね。さすがSランクパーティー、といったところかしら」
「いらっしゃい。その仮面かい? 見たいってのは」
店の奥から、しわがれた声が響く。顔を向けると、年老いた女性が、細い目でこちらを見ていた。アリアン嬢が店員を呼んでくれたらしい。
「ええ、お願いしてもいいですか?」
「いいけど、衛生的に顔につけるのはやめとくれ。冷やかしでそういうことされると迷惑だからね」
気持ちはわかる。顔につけるものだしな。
ショーケースから取り出した仮面は、なんというか、端的に言って、あまり良い雰囲気のするものではなかった。制作者がリーディの知り合いだからあまり悪くは言いたくはないが、『攻撃 +大』というステータスがなかったら、手にも取っていないだろう。
「呪いの仮面て言われても信じちゃいそうね」
「俺もそう思ったけどさ、もうちょっと言葉を選ぼうぜ。俺たちの専属になるかも知れない職人の作品なんだからさ」
仮面を裏返すと、作者の銘が入っているのが見えた。薄く彫ったところに、黒炭で色を落とし込んである。「ユン・ギョル・リ―」と著されていた。
これを装備して戦う自分を想像してみる。得体のしれない仮面をつけて、敵を殴り倒している自分。
「……端的に怖いな」
「戦場で出会ったら夢にも出てきそうですよね」
「アリアン嬢、任せた」
「何で私なんですか! 嫌ですよこんな仮面!」
「敵をなぎ倒していく、正体不明の仮面の冒険者。かっこいいぜアリアン嬢。最高」
「さっき怖いって言ってましたよね⁉」
嫌がるアリアン嬢を尻目に、老婆に仮面の値段を聞く。先ほどの指輪より、幾分か買いやすい値段だった。それでも、平均的なCクラス冒険者の年収で二年分程だったが。
ここでも帝国の通貨が使えたので、三人とともに支払いを済ませる。俺一人の財布では入りきらないほどの金貨が必要だったので、他のメンバーにも持ってもらっているのだ。
会計が終わり、店の外に出る。今夜の宿は、リーディが知っているところを紹介してくれた。あの「ホテル」ほど豪華ではないが、受付に立った限りでは居心地のよさそうな場所だった。野宿よりは遥かにマシだしね。
宿に向かう途中でも、彼女の不満は爆発していた。
「私、絶対こんなの着けませんからね! 断固拒否します! 絶対いや!」
「これがツンデレってやつか。初めて見たな」
「なかなか悪くない。世の男たちが甘酸っぱい感情を抱くのもわかる」
「ホント、アリアンちゃんは素直じゃないわよね」
「今の発現のどこを切り取ったらそうなるんですか! これは立派なハラスメントですよ! ギルドに訴えます!」
「まあまあ落ち着けアリアン嬢。想像してごらんよ。リーディもそうだが、正体不明の敵ってのはそれだけで威圧感があるもんさ。だから、あの変た……じゃなかった、狂気の仮面を着けることによって、うちのパーティの威圧感は否が応にも増すってわけ」
「今『変態』って言いかけましたよね! 言い換えても、『狂気』ってどういうことですか! 私はもっと、可憐でスタイリッシュな冒険者になるんです!」
猛毒が付与された、自分の身長よりも大きい長槍斧を振り回しておいて可憐も何も合ったものではないと思うが、火に油を注いでしまいそうなので黙っておくことにした。
リーディは、その細身の身体からは想像もつかないような大きな全身鎧に身を包み戦う。顔全体が隠れる兜を被っているため、傍から見れば身長2メートル越えの巨人が、巨大な戦槌を振り回しているように見えるのだ。初見のパーティーは、中身がスレンダーなモデル系少女だと知ると、大抵腰を抜かすほど驚く。
アリアン嬢は、兜らしい兜を身につけずに戦う。武器を振る際、邪魔になるのだそうだ。額を割られて致命傷になるのを防ぐための簡素な防具以外、頭には身に着けていない。
「でもほら、正体不明って、男のロマンじゃない?」
「女です! それにそんなに言うなら、クリスさんが被ったらいいじゃないですか! 神出鬼没のスーパーヒーローになれますよ!」
「俺は、ホラ、『探訪者たち』に貰った拳鍔で、正体がバレちゃうから……」
「私の長槍斧だって、猛毒が滴っててものすごい特徴的なんだからバレちゃいますよ!」
彼女は断固として拒否の構えだ。だがしかし、戦力的な話をすると、今は彼女がこれを身に着けるのが最善。何しろうちのエースアタッカーだ。
俺はアリアン嬢の肩に手を置いた。蜂蜜色の瞳が、驚きに揺れる。
「真面目な話、これをアリアン嬢に身に着けてもらえると、俺たちの勝率はグンと上がるんだ。デザインが気に入らないのはよくわかる。わかるんだが、何とか王種鬼討伐の際には身に着けてもらえないだろうか。他にいいアクセサリーが出てきたときには、必ずそっちを優先するから! 頼む!」
「あたしからもお願いするわ。本当は、リーディ、クリスの二人に行動速度上昇効果のある装飾品を身に着けてもらえるなら、あなたにも行動速度上昇効果のあるものを使ってもらいたかったの。でもそれが叶わないから、せめて攻撃力だけでも……相手はSランクよ。できるだけ勝率は上げておきたいの」
ヴィクトリアが、後ろから援護してくる。珍しく真面目なトーンだった。アリアン嬢は眉根を寄せてそれを聞く。ややあって、ため息をついた。下から睨めつけるような目でいう。
「……リーディの知り合いがうちの専属になってくれたら、最初に作るアクセサリーは、私のものにするってことでいいですか」
俺とヴィクトリアは顔をお見合わせ、それから頷いた。もちろん大歓迎だとも。
「じゃあ、仕方ないので、とりあえず納得します」
でも、その職人のアトリエにアクセサリがある可能性はあるんですよね、と彼女。やはりどうしても理性で割り切れない部分があるのだろう。仕方ない。あれを身につけたら、可憐な少女が立ちどころに狂える戦士だ。
「じゃあ、ステータスを見るから、被ってもらっていい?」
「ここでですか⁉ 宿に戻ってからにしましょうよ! 絶対変な目で見られますって!」
「魔族は、そんなの気に……しない……はず……。……大丈夫」
「リーディ、今の間は何ですか! ていうかあなたの知り合いのセンス、どうなってるんですか本当に!」
そして、手に持った仮面と俺を交互に見る。
「……え? そういう趣味ですか? 嫌がる女の子に、無理やりアレコレして興奮する……」
「違うわ! 人聞きの悪いこと言うな!」




