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「待ってください」


 声をかけられる。背中向きだったが、先ほどの受付嬢のものではなかった。思わず振り返る。


「……ああ、お久しぶりです」


 そこにいたのは、コリンさんだった。俺がまだ帝国に来たばかり、駆け出しのGランクだったころから担当してくれた、ある意味恩人である。

 俺たちがランクを上げるたびに、彼女自身も出世していき、今は現場からは離れていたはずだ。確か俺たちのようなパーティーを育てるにはどうしたらよいか、をあちこちで公演しているという話を聞いたことがある。


「少し、ご相談させていただいてよろしいでしょうか」


 俺はコリンさんと先ほどの受付嬢を順番に見て、それからヴィクトリア達に視線を戻した。ヴィクトリアとリーディは無反応だったが、アリアン嬢は目線で「話を聞いてあげましょう」と訴えかけてくる。彼女も『黒いメンフクロウ』がFランクの頃に加入してくれて以来、コリンさんにはお世話になっているのだ。このまま帰っては夢見が悪いということだろう。

 俺は頭を掻くと、コリンさんに向き直った。


「コリンさんに言われてしまうとね。少しだけならいいですよ」

「ありがとうございます。それでは、こちらにおいでいただけますでしょうか」


 そういうと、受付カウンターを出て個室に俺たちを案内する。

 俺がついていくと、アリアン嬢が嬉しそうに俺を見ながらついてきた。尻尾があれば、ちぎれんばかりに振っているのが見えただろう。リーディは特に反応もせず、ヴィクトリアはありありと顔に不満を浮かべながらついてきた。顔に書いてあるのがハッキリと読める。「女に甘い顔をしやがって」だ。

 違う違うよ関係ないよ。これは女性だからとかではなく、単純にお世話になった人だからだよ。そんな目で僕を見ないでベイビー。

 個室に通され、全員が着席すると、コリンさんが深々と頭を下げた。


「申し訳ありませんでした。こちらが先走りすぎました」

 

 ヴィクトリアが、目線を合わせないまま小さく舌打ちした。コリンさんはたっぷり20秒ほど下げていた頭をゆっくりと上げると、俺ではなく、ヴィクトリアを見て続ける。


「『今の』あなた方では無理、というお話はわかりました。それでも、ギルドとしてはどうしてもこの案件をあなた方に請けていただきたい、と思っております。また、『探訪者たち』の推薦が出ている以上、どこの国に移籍したとしても同じような魔物を討伐することになるでしょう。残念ながら」


 ヴィクトリアが、天井を見上げながら大きいため息をついた。

 そうなんだよなあ。本当に『探訪者たち」 の連中、余計なことをしてくれたもんだ。俺たちの何がそんな気に入ったのだろう。


 「そこでご相談なのですが。『今の』あなたたちではなく、『王種鬼(キングオーガ)に勝てる』あなたたちになるには、どの程度必要ですか?」


 ぎょっとしたように、ヴィクトリアがコリンさんを見る。彼女はニコニコとした微笑みを湛えていた。

 これだからコリンさんはおっかねえ。普通に会話しているだけなのに、いつの間にか彼女のペースで物事が進むのだ。

 

「……ひと月」

「では、二週間。なんとかこちらで王種鬼の侵攻は食い止めます。とはいってもどれほど食い止められるかはわかりませんので、できるだけ急いでくださいね」

「……!」

「ある程度のリスクは、冒険者にはついて回りますよね。私たちも精一杯バックアップしますので、何卒宜しくお願い致します」


 そういって、もう一度深々と頭を下げた。

 ヴィクトリアは何も言えない。余裕を見て「ひと月」と答えたのだろう。

 コリンさんに見送られ、ギルドを出ると、ヴィクトリアが俺に噛みついてきた。


「何なのあの女! 前から気に入らなかったけど、ついに妖術じみた能力まで身につけたわね」

「すごかったですねえ。こっちの思惑全部お見通しで」

「俺だって一言も話しかけられなかったからな」

「私も。疎外感を感じた」

「リーディが入ったころにはもう彼女が担当じゃなかったからな。まあ仕方ないよ。俺なんか一人のころから彼女が担当だったってのに、あの部屋じゃ目線すらあわなかったぜ」

「私合いましたよ」

「負けた……」

「期間も、ギリギリなんとかなるのよね。本当に嫌らしいところ突いてきたわ。あれじゃ断りたくても断れない」


 ヴィクトリアが大きなため息をついた。スタイルの良い肢体が、力なく折れる。


「あと二週間。カムが頑張ってくれているから、リーディの鎧は何とかなるけど。行動速度の件はどうにもならないわ。アクセサリの職人がいないんだもの」

「前みたいに、『明けの明星』が職人を貸してくれたりしないですかね?」

「ダメよ。言えば力は貸してくれるかもしれない。けど、これから彼女たちと同じ舞台に上がろうというこのタイミングで、っていうのは賛成できないわ。あたしたちも彼女たちも意識していなくても、立場的に風下に断つことになってしまうもの」

「でもそれじゃ、私たちどうすればいいんですか!」

「それを今考えてるの!とはいえ、 そんな都合よく遺跡とかが見つかるはずもないし……」


 熱く語り合う二人を見ていると、リーディが、俺の袖を引っ張って来た。

 わかってるよ。確かにこれ以上ないタイミングだ。


「あの、お二人さん……」

「いっそのこと、帝国のギルドは辞めてしまい、他の国に移るのと同時に職人や遺跡を探すっていうのはどうですか! それなら、二週間よりももっと時間が稼げるんじゃないですかね」

「それはあたしも考えたんだけどね……。でも、見つからない可能性の方が高いわよ。Aランクで潜れる遺跡なんかたかが知れてるし、職人だって、あたしたちが帝国のギルドを飛び出したって聞いたらいい顔はしないでしょ」

「実は、いいお話が……」

「じゃあ、もうどうしようもないじゃないですか」

「だから、今悩んでるのよ!」


 なんだろう。俺、泣いてもいいよな?


「それに問題はまだあるの。今回の相手は王種鬼。群れを作る魔物よ。取り巻きがわんさかいるの。で、それを退治するのにサポートを要請しないといけないわけ」

「すればいいじゃないですか。この前の『探訪者たち』や、ずっと前の『明けの明星』みたいに、声をかければいいんでしょう?」

「あたしたちが帝国のギルドに所属しているままならね」

「……そうか。どこにも所属していないあたし達じゃ」

「そう。イヅモやジルベール達に協力してもらえるのが関の山。そんなんじゃ、多分勝てないわ」

「二人とも!」


 大声を出したのはリーディだ。彼女がそんなに大きな声を出すのは本当に珍しい。二人とも、目の玉が飛び出さんばかりに驚いている。


「職人に心当たりがある。ちょっと遠いけど、二週間あれば何とかなる」

「本当ですかリーディ!」

「本当」

「すごい! これで万事解決ですよ!」


 アリアン嬢は踊りださんばかりの喜びようだ。ヴィクトリアはそれでも、腕を組んで考え込んでいるが、少しして顔を上げる。


「それしか、ないか。リーディ、あんたに任せるわ。よろしくお願い」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 久々に、これぞ冒険譚!、という良い小説が読めてとても満足しました。読むのを辞められず、今日1日で1話から最新話まで読んでしまいました。 個人的に好きなところは、登場人物それぞれがしっかりし…
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