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「見て。これなんかいいと思う」
「すげえド派手なネックレスだな。値段もお見事だ。効果は……えーっと……『抵抗が少し上がる』か。見た目のわりに今一つな性能だぞ」
「性能は二の次。大事なのは心意気」
「心意気で無駄遣いしたら、俺が怒られるんだよ」
ギルドを出た後、肉料理で有名な『三匹の子豚』で、俺とリーディは食事を取った。そのあと、屋台やらをぶらぶらと。
今は帝都一の品揃えを誇る宝石店『森の護り』にて、品物を物色しながらああでもない、こうでもないと語り合っていた。入店してから、かれこれ30分は経っているだろうか。店員がうんざりした目でこちらを見ている。あれやこれやと手にとっては、何かと文句をつけて返しているのだから仕方のないことだろう。視線が痛い。
彼女が手に持っていたのは、紫色の宝石の中に、白と緑の貴石が嵌められていた。遠目に見ると、紫色の魔物の目に見えなくもない。
「このあたりが、どことなく目に見える。『紫色の魔物の瞳(仮称)』と呼びたい」
「勝手に名前をつけるんじゃありません。確かに見えるけども」
「そちら、高名な作家の作品で、『夢の跡』という作品です」
店員が、笑顔に青筋を浮かべながら言ってくる。『夢の跡』? 悪夢の間違いじゃねえのか。
俺は店員を無視し、リーディを振り返る。
「しかし、やはり専属で職人が必要だな。帝都でこの品ぞろえとなると、他はもっと期待できない。でもなあ。アクセサリー職人のツテなんかないしなあ」
「この品ぞろえ」と口に出したあたりで、店員の視線がさらにきつくなった気がするが気にしない。
宝石、貴石を使用したアクセサリーは、見た目こそ華やかだが大した効果を付与するものはなかった。特に俺たちが求めているのは「行動速度」を上昇させるアイテムだったが、それに関しては一つも取り扱っていない。
「ツテならあるけど」
「Aランクで潜れる各種遺跡なんか、ほぼすべて荒らされてるだろうしなあ。Sランクに上がればまだまだ未踏の遺跡があるだろうけど、俺たちじゃ入れないし」
「私の知り合いに、アクセサリー職人いるけど」
「困った。上のランクに行く前に、なんとか行動速度の上昇は図っておきたいんだよなあ……え?」
「知り合いに、アクセサリー職人、いる」
リーディが、俺を見て口をとがらせながらそういった。
「ちょ、ちょっと待って! いったん落ち着こう。ここじゃない方がいいな」
リーディの手を引き、店を出る。紫色の魔物の瞳(仮称)は、あまりに焦ったため、丁寧に置いたつもりだが、ほぼ放り投げるような形で店員に返してしまった。しばらくあそこの店には立ち寄れないな。店員さんごめん。
路地裏に連れ込み、壁を背にしたリーディの顔の横に手を差し出す。彼女が小さな声で、「きゃ」とつぶやくのが聞こえて冷静になった。これではまるで、俺がリーディに絡んでいるようではないか。
「ご、ごめん!」
慌てて距離を取ろうとすると、リーディが俺の手首を抑え、再度壁へと戻した。お互いの鼻がくっつきそうな距離に、今度は俺がどぎまぎしてしまう。
「いい。このままで」
「ええ……?」
「このままでいいから、続けて」
「えーっと……。じゃあ、アクセサリー職人の話だったよな?」
距離が近いせいで、リーディの綺麗な鼻筋、形のよい唇、長い睫毛が嫌でも目に飛び込んでくる。お互いの吐息がかかるほど、二人の空間は近い。
それにしてもリーディは平然としている。俺のことをそこまで意識していないのだろう。
「そう。アクセサリー職人、心当たりがある」
「すげえな。腕前はどんな感じだ? モノになりそう?」
今はそこまで技術がなくても、専属になってもらい、鍛えていけば素晴らしい職人になる可能性がある。
俺たち『黒いメンフクロウ』も当然、募集をかけているのだが、応募自体が少ない上に来る職人がひどいものだった。アクセサリー制作のスキルがなかったり、人間的に非常に問題があったり。女性が多いと聞いてきたのか、明らかに性的な目でアリアン嬢たちを見るようなやつもいた。当然、丁重にお引き取り願ったが。
「うん。すごいと思う。作ったものを、魔王が使ってる」
「そうか。それはすごいな。魔王……え?」
「魔王の、アクセサリーを、作ったことがある」
リーディが、力強く言う。
「それじゃ、その職人ていうのは」
「そう。魔族」
なるほどね。
全く盲点だった。人間と同じように魔族にも社会があり、それぞれの役割がある。それなら、魔族の中にも武器職人やアクセサリー職人がいるのは当然のことじゃないか。
「こっちに呼び込めるか?」
「多分。前は『自分の評価はこんなものじゃない』って、結構不満をため込んでいた。お金はかかると思うけど、呼ぶこと自体はできると思う」
「頼む。今俺たちに必要なのは、まさにその才能だ。金自体はやらしい話、結構あるしな。この際、糸目をつけず頼む」
「わかった。すぐに手配する。それにしても」
リーディが俺の顔を見上げる。彼女は背が高く、俺とほとんど変わらないため、少しだけ上目遣いになる程度だが。
「やっぱりクリスは変わってる」
「何がだ?」
「普通、魔族の職人なんて呼ぼうと思わないし、そんな提案されていい気はしない」
「だって、俺たちのためになると思ったから提案してくれたんだろ?」
壁についていた手を離し、リーディの頭を撫でる。少しだけくすぐったそうにしながら、猫のように目を細めた。
「俺たちの敵は、別に魔族ってわけじゃないしな。まあ、魔王が人間の世界に出張ってきたときは話が別だけど。だから、優秀な職人であれば大歓迎だよ。もちろん、優秀な冒険者も」
「……ありがとう」
そういうと、するりと俺の体を潜り抜け、大通りに向かう。
「そろそろ約束の時間だし、ギルドに向かおう」
ギルドの受付には、先ほどの胸が豊かな彼女がいた。俺たちを見ると、笑顔でこちらに手を振る。それに合わせて、豊かな二つのふくらみがアイタァッ!
「じろじろ見ない」
そうは言っても無理だぜリーディ。彼女の視線誘導効果たるや、何かのスキルを使っているのではないかと疑いたくなるくらいだ。違う方向を見ようと思っても視線が強制的に修正される。恐ろしい。俺は全く恐ろしいぜリーディ!
「あ、奥の部屋でギルド長がお待ちです。どうぞそのままお進みください」
受付嬢に言われて我に返り、頭をかきながら奥へと進む。周りの連中が、何事だと俺たちを見ていた。基本的にギルド長の部屋に通されることなど、除名でもなければありえない。そこまでまずいことをやった覚えはないのだが、一体なんだろう。
扉を開けると、顎ひげを蓄えた、筋骨隆々の男が座っていた。初老だが、その眼光はいささかも衰えていない。
帝国のギルドを統括する男、ギルド長のマイク・リューだ。
「よく来たな。まあ座れ」
言われるがままに、俺とリーディはソファに腰掛ける。冒険者が集う場所とは思えないほどふかふかのソファが、やんわりと俺たちを包んだ。
「えっと、なにか、御用があるとかで?」
「御用ね」
ふっと鼻で笑うギルド長。
なんだろう。何かしただろうか。思い出せない。別にクビになるようなことは何もしていないはずなんだが。
だが、ギルド長の口から飛び出したのは、驚くべき一言だった。
「お前らをSランクに推薦するよう、『探訪者たち』から要請があった。本当に、何をしたんだお前ら」
……は?
これにて第二章完結です。
第三章を始める際に、たぶんタイトルを変更してスタートとなると思います。
引き続きよろしくお願いいたします。




