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翌日は良く晴れた。視界の端に、パン切れのような小さな雲があるが、それ以外は全てが青い空。
目が覚めたとき、すでに日は大分高い位置にあった。いつもならアリアン嬢あたりが飛び込んでくるはずだが、今日は誰もいない。
歯を磨き、顔を洗うと、大分頭がすっきりとしてきた。今日はリーディとギルドに報告をする日だった。彼女はもう起きているのだろうか。
着替えて下に降りる。今日は魔物と相対するわけではなく、ギルドに行くだけなので、上も下も簡素な普段着だ。上が生成り、下が赤。ヴィクトリアからは、「もう少しおしゃれした方が良い」と言われているが、そんなに変かな?本人は似合っていると思ってるんだが。
下に降りると、リーディがリビングのテーブルで腰掛け、パンを食べていた。上にチーズと目玉焼きが乗っているものだ。焦げたチーズから、香ばしい匂いが漂ってくる。
「おはようリーディ。いい匂いだな」
「おはよう。起きるの遅い。もう皆出かけた」
「それは悪かったよ。長旅の疲れが出たんだろ」
「皆長旅だった」
「返す言葉もございません」
軽口を叩きながら、キッチンに向かう。リビングとキッチンは一体となっており、料理を作りながらリビングにいる皆と話ができる仕組みとなっていた。これをいたく気に入ったのがアリアン嬢で、彼女が料理を作るときは、リビングに全員そろっていないと不機嫌になるので困る。
棚から陶器の皿を出し、その上にパンを乗せる。チーズは丸くカットされたものを乗せた。卵を乗せようかとも思ったが、気分を変えてハムを乗せることにした。厚さ1センチほどのハムを取り出し、陶器の皿ごと炎の上に乗せる。
数分待つと、チーズがとろけだし、何とも言えない香りが広がった。熱いものを掴むための専用の手袋があるのでそれを嵌め、火の上から皿を取り出す。そのまま、リーディの待つテーブルまで向かった。
リーディはすでに八割方食べ終わっていたが、俺が食べるのを待ってくれるようだった。こちらを確認し、食べる口の大きさを今までより小さくする。
こういう細かい気づかいができるって、すごいことだよなあ。
「今日、一緒に行ってほしいところがある」
「? ギルドだろ?」
「ちがう。そのあと、買い物とかしたい。だから、そこに一緒に行ってほしい」
「ああ、なるほど。勿論いいぞ。何買うんだ?」
「いろいろ。とりあえずアクセサリは見たい。もしかしたら掘り出し物があるかも」
「了解」
アクセサリは、攻撃と防御以外の、行動速度、精度、抵抗、運のほか、各種属性や行動阻害への抵抗を上昇させる効果がある。アクセサリにも、カムのような職人が存在し、その効果によってランク分けがされていた。
当然、いいものはなかなか市場に出ない。俺たち『黒いメンフクロウ』も、職人のツテがなく、ここはあまり質の良くない市販品を使用している。
「アクセサリは確かに課題だからなあ。俺たちも、もうAランクなんだし、本来であれば専属の職人がいてもいいはずなんだが」
「仕方ない。職人の数は多くても、私たちにふさわしいアクセサリを作れる職人なんて一握りだし」
トーストを胃の中に流し込むと、リーディの物と合わせて、陶器の皿を流し場にいれる。流し場には水が張っており、これにより汚れが落ちやすくなるのだ。特にチーズ。乾いて落ちにくくなった状態をアリアン嬢に発見されたら、ただでは済まない。
「それじゃ、行こうか。まずはギルドからかな」
「うん」
庭に出ると、イヅモとジルベールが戦闘訓練をしていた。奥でコックスが何か頷きながらメモを取っている。3人になったため、新しい戦術を試しているのだろうか。
あいつらも、もう一人前のパーティーだよなあ。
「イヅモ、嬉しそう」
「確かに。戦闘が楽になるからかな?」
「違うと思う。仲間が増えるのが嬉しいんだと思う」
「もう一人くらい増やせそうだぞ」
「これからも私たちはいろんなところに行くし、いい人がいたら紹介するようにしたい」
「賛成」
馬車に乗り込み、ギルドへと向かう。どういった仕組みなのか、俺たちの家の周りは常に霧が立ち込めており、一般の人間は入ってこない。
しばらくすると霧が晴れ、帝都の街並みが見えてきた。この道をまっすぐ進み、左に一度だけ曲がると、ギルドが見えてくる。
街は活気にあふれていた。ここのところ、新たな脅威は確認されていないし、どこと戦争をしているわけでもない。様々な物資が行き交い、それがまた新たな活気を生んでいる。こうして街は発展する、という見本のような状態だと思った。
ギルドの前に馬車を止める。リーディと中に入ると、ここも人であふれかえっていた。大きな脅威はなくとも、小さな脅威はいつだってあるのだ。
受付に向かうと、コリンさんはいなかった。風のうわさでは、『黒いメンフクロウ』を育てたそのメソッドを聞きたいと、受付から講師にジョブチェンジさせられたらしい。確かに最近見ていない。
代わりに、若い女性が受付に立っていた。
「『黒いメンフクロウ』のクリス・イングブルムとリーディ・ヘイソォですが。先般の依頼の報告にまいりました」
「はい。『黒いメンフクロウ』さんですね。ええっと……受けていただいている物をお調べしますので……少々……お待ちください……」
受付の女性は、俺よりも20センチは身長の低い、小動物のような人だった。金に近い茶色の髪を、肩口で短く切りそろえており、うっかりすると子供のようにも見える。
彼女を大人だと判断せしむる材料は、顔にはなかった。
胸だ。豊かな果実のようなそれが、探し物をする彼女の頭に合わせて動いている。
受付嬢の制服自体、Yシャツにブレザーと、決して性的に何かを煽るようなものではない。しかし、しかしである。デザイナーも想定していなかったその胸は、Yシャツを押し上げ、ボタンを弾き飛ばさんばかりに引っ張り、そして探し物をする関係上、上から見るとかなりきわどいところまで見えていたのだ。
「ええっと……ごめんなさい。資料が見つからなくって」
「いえいえ、いいんですアイタァッ‼」
脇腹を思い切りつねられ、思わず声が出てしまう。横を見ると、リーディが膨れ面でこちらを見ていた。
「変態」
「いや違う、これはあくまで純粋な芸術の環礁であってけっしていやらしいきもちはアイタァッ‼」
再び脇腹に激痛。というかリーディ、お前魔王候補なんだから手加減してくれよ。これ絶対アザになるやつだわ。
受付嬢が、ようやく探し物を見つけたのか、ひょっこりと顔を出す。
「申し訳ございません。『探訪者たち』のサポートをされた『黒いメンフクロウ』のクリスさんとリーディさんですね」
「はい」
「今回の件について、ギルド長からお話があるそうです。ただ、現在ギルド長が来客中でして、大変申し訳ないのですが、夕方に再度おいでいただくことは可能でしょうか」
「ああ、気にしないでください。こちらも用事がありましたから」
もともとここには、一言報告するためだけに来たのだ。リーディと、軽く街を見よう。
振り返ると、リーディがこちらを見て頷いた。かすかに微笑みながら。




