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「してやられたわね。まさか、いきなりあんなアイテムを持ち出してくるとは思わなかったわ。彼の危険性はわかっていたつもりだったのに……何枚も上手だったわね」
「あれは誰にもわからない。私も本当にびっくりした」
「あれ、もう神話とかに出てくるやつですよね。私、もうびっくりしちゃいましたよ。いいなあ」
「そう思わせることが彼らの目的なんだぞ。気を引き締めていかないとダメだ」
「そう言ってるクリスの顔が一番ニヤけてるじゃない。」
「そりゃあ、なあ。やっぱりそうだろ」
「ところで、いつ見せていただけるのですかな? 拙者、先ほどからもうドキドキしっぱなしですぞ」
カムにそう言われて、現実へと意識が戻ってくる。
あの祝宴から二日。俺たちは帝国の、自分たちの家に戻ってきていた。報酬は『探訪者たち』がとりまとめ、帝国のギルドから払われることになっている。討伐数をごまかしたりできないよう、彼らのサインが入ったチケットの半券を持たされていた。たまにいるのだ。実際はちょっとしか討伐していないのに、もっと討伐したはずだ、おかしいとゴネる連中が。そういった輩への対策として、この制度があった。
ギルドには寄っていない。どうせ明日には顔を出さなければならないのだし、飛空艇の旅はなかなかに疲れる。基本何かをすることなく、ずっと座りっぱなしなのだが、それはそれで意外と疲れるものなのだ。後回しにできることは後回しにしたい。
そんなわけで、帰宅早々、工房で作業をしていたカムを呼び出し、貰った武器を見せるところだった。ちなみに俺の影にいた悪魔公爵ジルベールは、今はいない。庭先でコックスとイヅモに紹介したところ、少し話がしたいと言っていたので残ってもらうことにしたのだ。コックスは新たな魔物の登場に危うく白目をむいて倒れるところだった。まあ無理もない。もとはただの不動産屋なのだ。悪徳ではあるが。
同情はするが、だからといって彼のパーティーに入れるしかないのでそこは我慢してもらう。今はショックから回復し、三人でなにやら話をしていた。
「これがそうなんだが……どう思う?」
箱を開け、中から『勇奮突破』を取り出す。その蒼白い輝きを見た瞬間、カムの口から、おお、という短い言葉が漏れ、それから、いろいろな角度で眺めはじめた。
ひとしきり確認し終えると、大きなため息をつく。
「いやあ、これはすごい。拙者も、それなりの武器防具を見てきたし、造ってきた自負はあったのですが、これはそういったものの次元を超えておりますな。比べるのもおこがましいほどです。自信を無くしますなあ」
「それほどか?」
「ええ。どうしたらこんなものが造れるのか……正直職人としては羨望半分、妬ましさ半分といったところです。ですが、道筋は見えました。自分の武器にない考え方をいくつも発見しましたからな。あとはそれを実際の武器製造に生かすだけですぞ」
「頼もしいね。さすがうちの専属職人。そうこなくちゃ」
「神が造ったと言われるのも納得の武器ですが、そんなことはありえないと信じております。であれば、必ず人が造ったはず。現在を生きる我々が負けてはなりません。僕……拙者はやりますぞ!」
かっこいいじゃない。
ところで、なんで「拙者」って言い直すんだろうなあ。「僕」でいいのに。
彼自身もキマッた、と思ったのだろう。ちらりとアリアン嬢の様子をうかがうのが分かった。当のアリアン嬢は明後日の方向を見ながら、リーディと談笑している。
あ、めっちゃ肩を落としてる。元気出して。
「ところで、他にも採ってきた素材があるんだ。見てくれないか」
そういって、カバンの中から今回の戦利品を取り出していく。カムは持っていた『勇奮突破』を丁寧に箱にしまうと、一つずつ丁寧に確認を始めた。
素材は主に悪魔伯爵から頂いたものだが、黄玉龍のものもあった。それをつまみ、ひっくり返し、時に透かし、固さを確かめる。
「少し、傷つけても?」
「構わない」
頷くと、後ろの棚からヤットコとハンマーを取り出してくる。今見ているのは黄玉龍の鱗だ。何枚か持って帰ってきたうちの一枚を、叩いたりねじったりしながら様子を見る。
「今現在、『黒いメンフクロウ』の財政状況はいかがなものでしたでしょうか。これらを売る必要がありますか?」
「いいえ。ここのところの依頼の報酬で十分黒字よ。どうして?」
「できれば、今回の素材は全て売らずに取っておいてほしいのです。これから、皆さんの武器防具を造るのに使うでしょうし、またもしかしたら、アクセサリーを造る際にも必要となるかもしれません」
わかった、と答えると、彼はまた素材を調べ始めた。手に取った素材を器用に種類ごとに分けていく。やがて、例の悪魔伯爵の心臓が変異した歯車を見つけると、目の色が変わった。
「……これは」
「悪魔伯爵の心臓部分が変異したものだそうだ。なかなか採れないらしくて、この二つしかないが」
「二つあれば十分です。これはすごいですぞクリス。拙者の思い描いていたあれが……あれが造れるかもしれない」
何やら興奮し始めたカム。早口でまくしたて始めた。
「もともと構想していたことがあったのです。でも、とても実現できる気がしなかった。ただ、これさえあればできるかもしれない。感謝しますぞ。よくぞこれを持ち帰ってきてくださった! 『勇奮突破』から学んだエッセンスと、この素材があれば、最初に思っていたよりも素晴らしいものができること間違いなし! くふぅ、興奮が抑えられませんな」
「どんなものを造ろうとしていたの? 武器? それとも防具?」
ヴィクトリアがそう尋ねると、カムがこの日一番の笑顔を見せながら答えた。
「防具です。リーディ氏の大型全身鎧ですな。いいですかヴィクトリア氏。大型全身鎧の長所は、その大きさ故の高い防御力。対して短所は、機動力の低さです。今はリーディ氏の驚くべき腕力と脚力で何とかなっておりますが、これ以上頑丈な素材で造ると彼女のスピードが殺されてしまう」
「確かに、そうなるでしょうね」
「そこで、拙者が考えていたのは、動作を補助する機構を造ることでした。いわば、人工筋肉をつけた全身鎧といったところですな。ところがです」
カムは歯車を取り出すと、高く掲げた。あの何とも言えない金色が、工房の灯に照らされてキラキラと光っている。
「皆さんが持ち帰ってきてくれたこの素材は、それを遥かに超える可能性を秘めている。極端な話、動作を補助どころか、鎧が自律的に動くことも可能となるのです。そして、鎧の重さ自体は無視できる。これがいかにすごいことか、おわかりになるでしょう?」
カムが語ってくれた内容は、俺たちが想像もできない程素晴らしい内容だった。あの重たい全身鎧が、自動で動く? 古今東西、そんな鎧は聞いたこともない。それこそ、神代の遺物であってもだ。カムは今、神の領域に手をかけているのではないだろうか。
「話しているうちに、アイデアが湧き出てきましたぞ! 明後日までには、試作のための材料が算出できるはず! それでは、これにて失礼!」
言うや否や、歯車を持ったまま奥へと引っ込み、羊皮紙と格闘し始めた。アーティストがああなった時、声をかけないのが一番だと、俺は知っている。
「行こうかヴィクトリア。明日はどうせギルドへの報告だけだ。今日はもうゆっくり休もう」
「ええ、それじゃ……あら?」
ヴィクトリアが不思議そうな声を上げたのは、そこにリーディが立っていたからだ。工房の中は暑いからだろうか、長い黒髪を頭の後ろ、高い位置で縛っている。
「明日は、私がギルドに一緒に行く」
その言葉に、ヴィクトリアがにやりと意地悪な顔を浮かべる。
「あら、ちゃんとできるのかしら?」
「大丈夫。任せて」
肩をすくめると、背を向けて歩き出す。
「じゃあお願いするわ。どのみち、あなたにはその権利がある。明日は楽しんで」




