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 そして現在。俺たちはヴィクトリアの予想通り壇上にあげられ、ダイアナとロザリアから、こちらの顔が赤くなるくらいの誉め言葉を頂いていた。

 フレッド・カップスは端の方の席に座り、ニコニコしている。相変わらず何を考えているかわからない笑顔だ。

 トレイシー・スライディーニは、特に何もしていなかった。フレッド・カップスの隣に座り、ニコニコとしているだけだ。気づいたのだが、こちらを見る彼女の目の奥は全く笑っていない。フレッド・カップスや『探訪者たち』の皆に合わせているのだろう。


 できるだけ関わりたくない相手だったが、「手伝ってほしい」と言われている以上、今後も付き合いは発生するのだろう。自分たちより上手の相手と共に依頼をこなすのは、こちらの経験にもなるので通常は歓迎している。しかし今回は相手が相手だ。神経をすり減らしまくる旅になるのは目に見えている。勘弁してもらいたい。


 ダイアナのスピーチはまだ続いている。他のパーティーの救助を行うことが、いかに尊く、いかに素晴らしいことかを語る内容だ。それを彼女のカリスマ性で、一大演説に仕立てている。見てみろよ。聞いている連中はさっきからうっとりしっぱなしだ。泣いているやつまでいる。

 これで、王国のギルドはさらに生還率が高くなり、それに伴って質も高くなるのだろう。帝国のギルドは差をつけられるばかりだ。


「悔しいけど、見事な演説ね。大したものだわ。皆その気になっている」

「まあ、実際すごいよ。壇上にあげられてるのが自分たちでなきゃ、俺だって拍手したいところだ」

「クリスが助けたせい」

「そういう風に言うなよ。反省してますって。何つーかさ、寝覚めが悪いんだよな、放っておくとさ」

「ま、それがクリスさんのいいところでもありますけどね」

「お、アリアン嬢。ナイスフォロー」

「同時に、悪いところでもありますよね」

「まさかのディスリスペクト」


 ダイアナの演説が終わり、大きな拍手が巻き起こる。彼女に促されて、リーダーであるフレッド・カップスが立ち上がった。

 そして、俺に向かって手招きをする。


「こっちに来いってことかな?」

「他にどう見えるんですか?」

「まずったな。兜被ってくるの忘れた」

「飲み食いする場所で、兜は無理。目をそらすしかない」


 少し迷ったが、結局立ち上がる。明らかに俺を見ていたし、断ることなどできるはずもない。『鑑定屋』が発動してしまわないよう、足元を見るようにして近づいていく。

 『探訪者たち』の目の前まで来ると、そのリーダーがこちらを覗き込むのが分かった。目線を合わせないように下を向く。どうか恥ずかしがり屋だと思われますように!思われますように!


 やがて、ふっと笑う声がした。今のはフレッド・カップスだろうか。なんて柔らかい声だ。心までとろけそうな気がする。

 ダイアナが皆に語り掛ける。


「それではここで、栄えある行動をとった『黒いメンフクロウ』のリーダー、クリス・イングブルムに、『探訪者たち』より感謝を込めて記念品を贈りたいと思う!」


 前もって言われていた通りだ。ここで渡すか。確かに、今が一番効果的だろう。誰かを助けたパーティーに対して、Sランクパーティーが感謝を示す。それを皆に見てもらえるのは、今が一番だ。国に帰ってしまえば、そうはいかない。

 それにしても早い。記念品は何だろうか。きっと間に合わせだろうが、エサとなるものだ。それなりにいいものは出てくるのではないだろうか。

 そんなことを考えていると、フレッド・カップスが例の柔らかい声で話しかけてきた。


「さて、『黒いメンフクロウ』のクリス……君だったね」

「はい」


 何だろう? 今一瞬、おかしな間があったような気がしたが。まあいいか。


「今回の救出、見事だった。いや、本当に感謝してる。散るはずの命を救うって、言うだけなら簡単だけど、実行に移すのは本当に難しいはずなんだ。自分たちだって、戦ってるわけだからね」


 自分たちにあてはめた時に、どうなのか考えているのだろう。周りからは、何の声もしない。しんとした空気の中、彼の柔らかい声だけが響く。


「君たちの勇気ある行動に、俺は感謝を示したい。本音をいえば、彼らみたいなパーティーがSランクに上がるべきなんだ。魔王を討伐したとか、そういうことではなく」


 ざわざわとした気配が、皆の間に広がっていく。俺も動揺していた。それはそうだろう。現役の、しかも世界最高のパーティーが、その属するギルドの制度を公然と批判したのだ。それも、各国の冒険者たちが集うこの場で。

 そんな中、再び、こちらを見る気配。いくら何でもここで目を合わせないのは失礼だろう。だが、この人のステータスを見た瞬間、俺は殺されるかもしれない。そこで、そっと一言、彼にだけ聞こえるように告げた。


「すみません。人見知りで」

「ああ、なるほど。それでね。良かった。嫌わているか、そうでなければ『何かまずいこと』でもあるのかと思ったよ」


 笑いながら、何でもないことのように言うその声に、心臓を掴まれたような気がした。この男は、俺のスキルのことを知っているのだろうか。しかし、泳がせている。どういうことだ。何か狙いがあるのだろうか。

 もう何が何だかわからない。一つ言えることは、中途半端な態度は死を招くということ。俺は今、人見知りとして、カップスと顔を合わせるのを避けている。ならば、最後までそれを貫くのみ。


 覚悟を決めた俺に対して、彼が声をかけてくる。


「見たところ、君の武器は拳鍔だね」

「はい」

「ほかの武器に変えるつもりは?」

「ありません。小さいころからこれでした」

「そうか」


 短くそうつぶやくと、いったん俺から距離をとり、トレイシーのもとへと戻る。そして、彼女から何かを受け取ると、また戻ってきた。両手で持つくらいの木箱を抱えている。

 そして、まずは皆に向けて蓋を開けた。大きなどよめきが広がる。


「それでは、君にこれを受け取ってほしい。6年前に魔王を討伐したときの遺跡で見つけた拳鍔だ。どういう理屈なのか、常に振動していて、殴る武器のはずなのに切れ味が抜群という不思議な武器でね。当時のテクノロジーではもちろん、現代のテクノロジーでも再現できない。一説には、神が造ったとまで言われている」


 そういうと、箱からそれを取り出し、恭しく俺の手に嵌める。それはまるで、指輪を嵌めるかのようだった。

 全体が蒼白く輝くその拳鍔は、彼の言う通り確かに少し震えているようだった。指の付け根部分が爪になっており、猛禽のそれを思わせる。一見はかなく見えるのに、絶対に壊せそうにない、不思議な武器だった。


「『勇奮突破(ブレイクスルー)』という。受け取ってくれ」


 冷静に、なるべく波風を立てないように。

 そう思っていたが、こりゃ無理だろ。

 神が造った、そう謳われるほどの奇跡の逸品が、今俺の拳にあるのだ。頭の中に、ダニと村を出てから今までの思いが、まるで走馬灯のように駆け巡った。

 世界一のパーティーから、認めてもらえたのだ。そして、これ以上は望んでも手に入らない物が、俺の手にある。

 

 腹の中から熱いものがこみ上げてきた。思わず両の手を突き上げ、皆に向かって雄叫びを上げる。

 周りの連中も、呼応するように雄叫びを上げた。砦中が、熱い。


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