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「主……これは……さすがの私でも……」
「私は、ジルベールさんなら余裕でできると思ってますよ! さすが悪魔の中でも公爵と呼ばれる、上位の存在だけありますよね! 本当に助かります!」
「おい……あの子、あんな可愛い顔して、鬼みたいな指示だぞこれ」
「そういう子なんだよ。まあ、運が悪かったと思ってあきらめるんだな」
「私、永遠の忠誠を誓ってしまったんだけど……」
「だから、運が悪かったんだってば。まあまだいいじゃないか。奥さんと子供は無事なんだろ?」
「あれだよ。悪魔より悪魔だよお前ら」
先ほど助けた『魚鱗の陣』のメンバー二人を背負いながら、ジルベールがそうぼやく。彼は影から出て実体化し、二人を運んでいた。
万が一敵と遭遇した場合、未だ意識の戻らない彼らを背負いながら戦うのは至難の業だ。そう考え、彼らを背負ってもらうことにしたのだ。誰かに見られた時には、『魚鱗の陣』のメンバーです、と言う手筈になっている。
彼らの様子だが、傷自体はハイポーションの力でふさがり、あとは回復を待つばかりだった。命に別条がなくてよかった。
『探訪者たち』が戦った場所へと戻ってくる。先ほどまで誰もいなかった場所に、今は別のパーティーがいた。それも魔物付きで。
『探訪者たち』かと思ったが違う。別のところから来た連中だ。二時の方角にいたパーティーだろうか。二人組だった。残りのメンバーは、死んだか、元々いないかのどちらかだろう。
だとすると、魔物を引き連れながらここまで来たことになる。受け持ちの場所で戦ってほしい。下手をすると、この魔物が暴れたせいで他のパーティーに被害が出る可能性がある。
二人のうち、一人はすでにこと切れ、もう一人は二体の悪魔伯爵を相手に戦っていた。悪魔に攻撃されたダメージを回復している間に、もう片方の悪魔に攻撃されてしまっている。あのままではジリ貧だ。
「どうする? 助ける?」
リーディが困ったように言う。いや、そりゃ困るよね。戻ってきたら人がいるとは思わないじゃんか。そんでまたピンチになってるし。
ジルベールを見ると、慌てた様子で首を横に振る。勢いよく。
うん。あの様子ならまだ行けそうだな。
「ジルベールさん、まだ行けそうですから、助けようと思えば助けられますよ」
にこやかにアリアン嬢が言う。気が合うね。
後ろでジルベールが泣きそうな顔になっていたが、なに、二人も三人も変わりはしないよ。大丈夫大丈夫。
「よし!じゃあ助けよう!」
「はい!」
「お人よしも度が過ぎるような気はするけど。まあいいわ。行きましょう」
「さっさと片付ける」
「そこのお前! あとは俺たちが引き受ける! 『撤退』を選択しろ!」
俺の言葉に頷いた冒険者が、即座に戦線を離脱する。追う悪魔の前に立ちふさがるように立つ俺たち。ターゲットが切り替わる感覚があった。ここから先は、俺たちの戦いだ。
とはいっても、これまでさんざん倒してきた悪魔伯爵だ。しかも相手は二匹。どう戦えば良いかは全て頭に入っている。俺たちの敵ではない。
『組織暴力』を発動し、タコ殴りにすると、あっけなく一匹が絶命した。というかリーディ、あれほど言ったのにまだ頭を吹き飛ばすんだね君は。
のこる一匹も、アリアン嬢の長槍斧の前にその魂を散らすこととなった。ていうか俺たち、滅茶苦茶強くなってない?一応こいつら、Aランクの魔物だよね? Bランクの大邪蛇に苦戦していたのが嘘のようだ。遠い昔のような気がする。
「あんたたち、すげえな! 本当に助かったよ、もうどうしたらいいかわからなかったんだ」
「なに、困ったときはお互い様さ。気にするな。歩けそうか?」
「ああ、大丈夫だ。仲間を……もう助からねえが、死体でも、連れて帰らねえと……」
そういった瞬間、糸が切れたように男が倒れる。緊張が解けてほっとしたのだろう。ジルベールを呼び寄せると、露骨に嫌な顔をした。
「おい、さすがに三人はちょっと……一人で持っていくのはきついぞ」
「大丈夫! あと少しだけだから! 他のパーティーがいるところにつくまで! 頼むよ」
「何と言われても、もう無理なものは無理……」
「ジルベールさん、寝袋の中にいれて引きずればいいんですよ。何も、無理して抱える必要はありません。ですから、きっと大丈夫ですよ」
アリアン嬢の笑顔が眩しい。
彼女がそう言って去った後、悪魔の公爵は俺にそっと語りかける。
「あの子、あんな可愛い顔してるのに、意外とサディスティックだよな……」
「そこが魅力なんだよ。諦めろ。おーい皆、このままここにいて別の魔物が出てきても嫌だし、素材の剥ぎ取りはそこそこにして撤退を優先しよう」
「わかったわ。でも歯車だけは探させて頂戴。あたし一個も見つけてないんだから」
「まだ諦めてなかったの。往生際が悪い」
「不屈の精神が、あたしの良さだと思うのよね」
そういうと、悪魔伯爵の素材を採りに戻っていく。リーディが側に来ると、俺の横に立った。
「あれ? リーディは、素材採りにいかないの?」
「私は前回採ったから、今回はあの二人に譲ってあげるの」
向こうでは、アリアン嬢が心臓のあたりを確認し、それから天を仰いでいる。見つからなかったのだろう。
リーディが兜を外していたので、その切りな黒髪をポンポン、と撫でてやる。気持ち良いのかくすぐったいのか、彼女は猫のように目を細めた。
「偉いな。リーディは」
「今回は、気持ちの余裕があるから」
小ぶりな鼻をつんと上向きにしながら、自慢気に言う。
ヴィクトリアが心臓を確認し、それから大きく肩を落とした。あの様子では、おそらく見つからなかったのだろう。俺はリーディの背中を軽くたたくと、声を張り上げた。
「おーい。そろそろ行くぞー。支度をしてくれー」
俺の声に応えて、アリアン嬢とヴィクトリアがこちらに戻ってくる。俺とアリアン嬢、それにリーディの寝袋をジルベールに渡し、今回助けた男も合わせてそれぞれに寝袋に詰め込む。各寝袋の先端に紐をつけ、一本にこよった状態でジルベールが引く格好だ。
「なんかその恰好、どこかで見たことあるな」
「どこ……で……見たん……だ……?」
三人を引きずるというのは、これはこれで大変なことらしい。額に汗を浮かべながら、彼が聞いてくる。どこで見たんだっけなあ。あれは確か……。
「思い出した。『チャーリー・ザ・グレート』って絵本だ」
「どんな内容……なんだ……?」
「奴隷の少年が成り上がる話だよ。少年時代のチャーリーのイラストにそっくりなんだ」
「それはつまり、今の私が奴隷みたいってことでいいのかな? 喧嘩なら買うぞ? ん?」
「まあ、このままいけば成り上がれるってことじゃないかな」
「私は今本当に、心の底から貴様のその陽気な脳みそがうらやましいよ」
地面に跡をつけながら、ずるずると引きずられる寝袋たち。なかなかにシュールな光景だ。今度こういうことがあったときのために、寝袋に小さな車輪をつけるべきだろうか、そんなことを考えているうち、気が付けば、『破戒僧』の担当部署を抜け、俺たちは砦の出口にたどりつこうとしていた。




